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高齢者コミュニティーでの人間模様(後編)【ジェラシー!】

老人介護をしながらでも楽しく暮らす方法
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老人コミュニティーでの人間模様(後編)【ジェラシー】

 高齢者コミュニティーでの人間模様(前編)【引きこもり】 のつづきです。

 白髪の老人とわたしの公園での会話は依然いぜんとして続いていた。

 白髪の老人が「あっ、こんにちは、○○さん」と、言っても、「今日は遅かったですね」と、A子さんが話しかけてみても、もはや正気を失い、怒りに満ちた表情で、ぶつくさと小声で独り言を呟いていたと言う。

 「許さねぇ、くそっ……」
父親のその呟きが、白髪の老人の耳に入ったとき、始めて “ 勘違いをされた ” と、思ったらしい。

 「○○さん奇遇ですね。実はA子さんとはむかし……」
 「うるせぇ!聞きたくない!」

 父親は白髪の老人の話をさえぎるなり、A子さんに向かって「別に話し相手なんていらねぇ!」と、啖呵たんかを切って、そそくさと施設内に入って行ってしまったらしい。

 白髪の老人とA子さんも後を追って、あれこれと話しかけたらしいが、父親は完全に耳を塞ぎ、無視をし続けたと言うのだ。

 それからも、何とか会う機会を作ろうとしましたが、パチンコ店やリハビリ施設にも来なくなってしまって、とうとう家を訪ねた次第です。」と、白髪の老人は話を結んだ。
 (単純に父親の嫉妬心じゃないか、アホらしい)それがわたしの感想だった。

 「本当に迷惑をかけました。わたしからちゃんと父に言っておきます。あんな性格なもので、すみません。」
 「いえいえ、タイミングも悪かったのです……。」

 「タイミングですか?」
 「はい、えぇ~と、このことは息子さんの胸の中にだけとどめて欲しいのですが……。」
 「あっ、はい……。」

 「あのぉ~、やっぱり、私の口からは言いにくくて……。」
 「お願いします。絶対父親には言いませんから、全部教えて下さい!」

 どうしても真相が知りたかった。
その頃の父親は、わたしの前ではあえて気丈に振る舞っていたのだが、時折、沈んだ表情や元気の無さが、目に付くようになっていたからだ。

 「あっ、はい。これはあくまでA子さんから聞いたはなしです。実は誤解のあった前日に、○○さん、A子さんに電話をしていたらしいです。電話の内容は、えぇ~、そのぉ、“ 一緒に暮らして欲しい ” といった内容だったらしいです……。」



 「えっ……。」
 白髪の老人からその事実を告げられたとき、わたしは、父親の正体が一体何者なのか、まるでつかめなくなってしまった。

 「返事は翌日にリハビリ施設に行くとき、会って聞くと言ったそうです。そうです、私が○○さんを訪ねて施設行った日です。」

 「つまり、A子さんと父親はそういう関係だったということですか?」
 「いやっ、それがですね……。

 白髪の老人は、父親に気を使っているからなのか、言葉を選び選びしながら、慎重に話した。

 「A子さんはずっと前に旦那さんに先立たれているらしく、子供たちもそれぞれ家庭を築いていて、きっと寂しいだろうと、○○さんの優しさから出た発言だと思います。」
(本当にそうだろうか?着替えも一人で満足に出来ない身体なのに、他人への優しさだなんて……。)

 「そういったタイミングで私がA子さんと仲良くし話していたものだから、申し訳がなくて……。何とか、お父さんには上手く伝えて下さい。」
白髪の老人は、そう言い残して帰って行った。
(さてと困った。どうしたら良いものか……。)

 わたしの感覚からすれば、 “ くだらない ” の一言で片付けてしまいたい問題であった。
親子とは言え、他人も同然に、人生を歩んできた間柄あいだがらである。

 さかのぼること一年前までは内縁の妻がいて、生活を共にしていた訳なのだから、単純に寂しさのあまり、同居をせがんでいるに違いない。
(A子さんからすれば、良い迷惑だろうに……。)

 その日、父親にはとりあえず、白髪の老人の言い分だけを伝えた。
反応は、「あの、スケベめ!」である。
上手く伝えたつもりでも、伝えられた側が自分勝手に解釈してしまうのだから、わたしもさじを投げるしかなかった。

 それからの数日間、父親の携帯電話がひっきりなしに鳴っていたのを記憶している。
多分、白髪の老人やA子さんからの電話だったのだろう。
着信表示を見るなり、携帯電話を布団の上に放り投げていたからだ。

「出て、ちゃんと話したらいいだろ!」
と、わたしが強く言っても、「お前には関係ねぇ!」と、決まって返されるだけだった。

 そんなある日、―――父親が体調を崩した。
普通の風邪だったが、熱が中々下がらず、食べ物も水分と栄養剤しからなくなった。
わたしも何日か仕事を休んだ。

 「おい、お粥でも食うか?」
 「いらね~」
 「なにも食わなくなったら入院するしかないじゃないか」
 「……。」

 少しの会話でさえも、体力が消耗するのだろうか。
それとも薬が効いてきたせいなのか判断はつかないが、やがて、父親は寝息を立てて、眠りについた。

 そんな最中さなかである。父親の携帯電話が再び鳴った。
だからといって起きる様子もない。

 中々鳴りやまない着信音がわたしをいらつかせた。
(まったく、留守電に切り替わるのが早くなるように設定すればいいのに)
そう思ったわたしは、何気なく父親の携帯を手に取って開いてみた。



 ―――A子さんからの電話であった。
そのとき、わたしは閃いた。(人間関係のわだかまりを解く絶好の機会ではなかろうかと)
そして電話に出て、「実は今父親が、風邪をこじらせて、これこれである」といったことを伝えた。

 翌日の早朝、白髪の老人とA子さんが揃って見舞いにきた。わたしはふたりを、まだ眠りにふけっている父親のもとに招き入れた。

 (ふたりの言い分を一切シャットアウトしてきたのだから、きっと冷静になって耳を傾けたら、誤解も解けるだろう)と。
そして、わたしはふたりに後を任せて父親の家を出た。

 その日、白髪の老人とA子さんは、夕方まで父親のそばに付き添っていたらしい。

 翌日に、ことの成り行きを伝えるためと、白髪の老人がわたしに、電話をしてくれたから、おおよその展開は知っている。

 ふたりの存在に気が付いたとき、父親は、無言で布団に潜り込んでしまったと言うのだ。
(風邪で体力を奪われているのだから、いつもの威勢のいい言葉ははっせない筈だ)

 その後、ふたりは根気よく言って聞かせたらしい。
そうこうしているうちに、父親は布団の中からひょっこりと顔半分だけを出して、
 「わかった、すまん……。」と、小声で謝ったと言う。

 しかし、ほっと、ふたりが安堵あんどしかけたとき、父親は、白髪の老人に向けて、予想外の言葉を続けたと言うのだ。

 「だったら、A子と結婚しても良いな?」



 長くなりそうなので、事の顛末てんまつから話そう。
A子さんはその場で、やんわりと父親の求婚を退けたらしい。
白髪の老人は、そこまで詳しく教えてくれなかった。

 風邪から回復してからの父親の様子を見る限りでは、まだ諦めてはいないようだ。
何故なら、パチンコ店やリハビリ施設に行くようになった。
それからなによりも、A子さんからと思われる電話のときの父親の表情は見るにえられない。

 目尻や口元は緩みっぱなしで、ときには、よだれまで垂れ流している。
もっともそれは、脳卒中の後遺症もあるが、いつもに増して大量だ。
そして、忘れてならないのは、その気色悪い、声色こわいろと言葉づかいだ。

 「は~い。わかった~。」
みたいな感じで、上ずり声で語尾まで伸ばしていやがる。

 「また、あしたねぇ~。」

 遠くで、父親の声に反応した野良猫が「みゃ~」と返事をした。


おわり

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あとがき【焼き餅を焼くとも手を焼くな】

 わたし自身、人生において様々な人間関係でのトラブルを経験してきました。
逆に、経験の無い人間が、もしもですがいらしたら、お目にかかりたいものです。

 最初はほんの些細な誤解が原因だったとしても、そのまま放置をすれば、人の噂と同じで、ひとりでに歩き始めます。
そして気が付いたときには、事が重大になり、手が付けられなくなります。

 手が付けられなくなると言うより、父親の場合は、
まさに『 焼き餅を焼くとも手を焼くな 』のほうでしたが・・・。

 誤解や行き違いは、真摯に向き合いさえすれば必ず解けます。
わたしはそれを、高齢者コミュニティーから学びました。

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