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老いると子供に戻るのは本当か?(前編)【不法侵入の疑い】

老人介護をしながらでも楽しく暮らす方法
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はじめに【傍から見たら挙動不審】

 当の本人としては、至って真面目な行動をとっているつもりでも、はたからはそれが挙動不審きょどうふしんに見えるってことがあります。
もっとも、容姿や身なりで判断されたりもするのですが・・・。

 例えば、トイレを我慢しているときや、道に迷ったとき、慣れない場所で落ち着かないときなどなど、状況を考えるとわたしも往々おうおうにして心当たりがあります。
心理的には極度の不安に駆られていたりすると、人の目には挙動不審に映るようです。

 去年の春先のはなしですが、父親がとある地域で不審者扱いをされ、危うく警察に通報されかけるといった、わたしからすれば災難、父親からすれば事故?みたいな、後味の悪い出来事がありました。

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老いると子供に戻るのは本当か?(前編)【不法侵入の疑い】

【実体験エピソード】

 寒さが緩み、春の陽気に変わると、人は無性に外が恋しくなる。
父親もそれは同じだ。冬の間は寒さを理由に、リハビリの為の散歩をこばんでいたのだが、自ら率先して行くようになった。

 春といった季節は、体調面から見てもすこぶる良好そうである。
これはあくまで、わたしの観察するところだが、寒すぎたり、また暑すぎたりすると、麻痺の残る左半身が重く感じるように見える。

 左半身を動かすとき、自分に気合を入れるためだろう、どうしても声を発するのだが、それが冬の「うおいっしょっと~~!」から「よいしょっと」に変わる。

 まぁ、そんなことはどうでもいい。
ともかく、散歩に行くようになり、わたしの心も春の陽ざしのように穏やかだったのを覚えている。

 相変わらず、たまに戦利品(ガラクタ)を拾って来てはいたが小物類が多くなっていたから、わたしも小言を言わなかった。今考えると不思議なくらい平穏な日々だったのである。

 そんな日々が一転したのは、近所に住む人間からの告げ口ではなく、忠告からだった。父親が散歩に出かけたのを見計らったかのように、その人間はやってきた。

 「あのぅ、ごめん下さい。○○さんの息子さんですね?」
歳にすれば六十歳くらいだろうか、髪の毛が赤っぽく染められていて、一見派手めな雰囲気の女性だ。



 「どちら様ですか?」と聞くと、女性は父親の家から約50メートル離れたところで、今はもう閉めたが、むかしはお米屋さんを営んでいた家の人間だと答えた。
(そう言えばシャッターは閉められているが、米という文字の上のふたつの点が取れ、木屋に変わった看板を見かけたことがあった)

 「それでね!」気忙しい性格なのだろう、女性は直ぐ本題に入ろうとしたが、玄関の戸は開けっ放しだし、声は大きいしで、とにかく家の中に入れて話しを聞くことにした。

 近所づきあいもしない父親なのだから、知らない誰かが家を訪ねて来たときは(どうせ、ろくなはなしじゃないだろ)と、思ったからだ。

 「実は○○町の町内会長さんから言われたんですが、多分こちらのお父さんであろうと……」
○○町は父親の暮らす地域からそう遠くない。
街の中心を流れる川がへだてているだけで、橋を渡ればすぐ目と鼻の先だ。

 「○○というお宅を知ってるかしら?ほら資産家の、会社を何社も経営してて、亡くなったおじいさんがむかし国会議員をしてた。あら知らないの、やだわ、まぁとにかく、そこのお宅、敷地がかなり広くて裏山があるのよね。そこの裏山でお父さんらしき人を良く見かけるらしくて、生け垣の隙間から入るのかしらね。」

 「そんなことはどうでもいいのよ。そこのお宅から “ 変なおじいさんが来ている ” って町内会長さんに連絡があったらしくて、町内会長さんがそこのお宅に行ったとき、敷地内じゃないけど近くを歩いているお父さんらしき人を見かけたんだって。あそこの町内会長さんもご高齢でしょう?あら、それも知らないの、だから最近の人たちはダメなのよ。」

 「あっ、そうそう、町内会長さんのはなしね。あの人、むかし郵便局に勤めてたでしょう。ここのお父さんの顔を知ってるらしいのよ。ごめんごめん、町内会長さん、うちの親戚なのよね、私の妹があそこに嫁に行ってて。やだわ、それを最初に話すべきだったわ。」

 「それでね、お父さんかもしれないから言っておいてくれって、悪気があって入ってる訳じゃないだろうし気を付けて下さい。って、ことで、お願いしますね。じゃあ、この口を付けなかった缶ジュース貰って行くわね。喉渇いちゃったわよ。」

 わたしはほとんど言葉を挟まず、相槌あいづちだけを打って、聞き役に徹していた。
いや、挟む隙すら与えられなかったと言えるだろう。見事だ。
(それにしても、なぜ父親が他人の敷地なんかに……)と、思ったわたしは、はたと気付いた。ゴミを漁っているに違いない。って、ことに。

 てっきり、粗大ごみ置き場から拾ってきていると思い込んでいたわたしだったが、(他人の土地に入っているのなら止めなければ)と、心に決めた。
と、同時に玄関を開ける音が聞こえた。

 父親が帰ってきたのだ。ひびの入った陶磁器の一輪挿しを左手に持って。



 「その壺はどこから持ってきた!」
 「はあ?貰った」

 それにしても最悪のタイミングで父親が戻って来たものである。しかも一輪挿しを手に持って。とぼけ顔で一輪挿しを “ 貰ってきた ” と言い放つ空々しさも腹が立つ。

 「正直に話せよ!」
 「なに、怒ってるんだ。馬鹿」
 「おい、まだはなしは終わってない!」

 父親は、わたしの怒りに対し(相手にするだけ無駄だ)とでも言いたげに、首を左右に小さく振りながら「どけ」と、一言だけを言い残して、寝室に閉じこもってしまった。

 翌日、冷静さを取り戻したわたしは、父親に事の経緯を話し、真実を追求しようとしたが、返答は「覚えていない」である。
一輪挿しのことも改めて聞いてみたが「貰った」の一点張りだ。

 この一件に関してだけは、何とか早めに解決せねばなるまい。
休日のときは嫌がるのも無視して、父親の散歩に付き添った。しかし、橋を渡ろうともしない。河川敷の遊歩道をよちよちと歩くだけだった。

 わたしの付き添いが邪魔らしく15分も歩けば戻ろうとする。普段は散歩に一時間半くらいかかるのだから、わざとに違いない。
結局、真実が突き止められないまま、骨折り損のくたびれ儲けである。

 その日、米屋のおばさんを訪ねて、隣町の町内会長さんの連絡先を聞いた。
そして、軒先から出るや否や連絡をとり、その足で会いに行くことになった。

 「まだ、お父さんと決まったわけではないですが……」と、前置きをしてから町内会長さんは話し始めた。

 「なんか、庭から続く裏山の茂みに人影があるって、あそこのお孫さんが言い出したらしいです。最初は動物かと思って近づいて行ったと言うのですが、茂みの中から口笛が聞こえてきて、よっぽど怖かったのか、それからは、あそこのお孫さん、庭で遊ばなくなったらしいです。その人影は度々現れるようですよ。一度はあそこで働く社員さんが見つけて、声をかけたみたいですが、竹藪のほうに消えてしまったと。わたしが知っているのはこのくらいでして……。」

 「もしかしたら、そこの裏山に物が捨ててあったりしませんか?」
わたしは、町内会長さんに抱いていた疑問をぶつけてみた。そして、父親に収集癖があることも伝えた。

 「さぁ、どうでしょう。いやいや、あそこに限ってゴミを放置したままにしているなんて絶対に有り得ません。帰りに家の横を通って見てください。庭木の手入れは見事なものですし、お金には余裕があるでしょうし、はい、言い切れます。有り得ませんよ。」

 どうやら、わたしの推測は外れたようだった。
(もしも本当に人影が父親だとしたら、どうしてそんなところに?)


つづく

 老いると子供に戻るのは本当か?(後編)【謎の問題行動】

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