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老いると子供に戻るのは本当か?(後編)【謎の問題行動】

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老いると子供に戻るのは本当か?(後編)【謎の問題行動】

 前回 老いると子供に戻るのは本当か?(前編)【不法侵入の疑い】 で、町内会長さんのところに行き、不法侵入の真相を確かめたところまで書いた。

 警察沙汰にだけはしたくないからと、町内会長さんにわたしの携帯番号を教え、「今度見つけたときは、どうか最初に連絡をして欲しい。」と、頼んだ。

 そして侵入された家のほうにも、「警察にだけはどうか通報だけはしないで下さい」との伝言をお願いし、その場から退散するようにして帰った。

 (先ずは父親から聞くなりして真実を確かめるしかない)と、思うのだが、これが一番厄介だ。人の話しをまともに聞く姿を見たことがない。どころか、常日頃からの言動が、冗談なのか本気なのか区別すらつかない。

 隠れて後を付けてみようかとも考えたが、例え現行犯で捕まえたとしても本人の反省が無かったらまた繰り返すに違いない。わたしは、人影が父親ではないってことを切に願った。近所の神社に行ってそのことをお祈りしたくらいだ。

 その三日後だったろうか、職場に出勤して直ぐの朝九時過ぎ、町内会長さんから電話が入った。
 「わたしも散歩中なのですが、○○さん宅の直ぐ近くにお父さんがいますよ」

 父親の問題で仕事を抜けたことは数え切れない。
職場の人間は理解を示してくれているというものの、毎度毎度、心が痛む。

 さて、20分後、わたしは現地に着いた。
町内会長さんはその前にもう一度わたしに電話をくれて、「少し、お父さんと話してみますから」と言っていた。

 わたしが到着したとき、ふたりはまだ会話中だったから、遠くから父親に見つからないよう、見守ることにした。会話を終えたふたりは離れた。そのタイミングで町内会長さんはわたしに電話をかけ、わたしの存在を知った。

 町内会長さんはわたしのほうに近づいてくる。父親は逆方向によちよちと歩きだした。
塀に隠れて死角になっていたわたしは、通り過ぎようとした町内会長さんを小声で呼び止めた。

 町内会長さんの言うところには「お父さんは本当に心当たりがないようですね」で、ある。
わたしと町内会長さんは、父親の後をつけるように、ときどき立ち止まったりしながら、父親との距離を保ったまま歩いた。

 「それにしても、お父さん痩せましたね」
 「あっ、そうですか……。」
 「わたしが郵便局に勤めていた頃は、行きつけのスナックで良く見かけましたし、そこのママさんを……あっ」

 町内会長さんはそこで言葉を一度飲み込み、「とにかく元気でした」と、息を漏らすように言った。

 「あのお宅ですよ」町内会長さんが小声で囁いた。
父親が無断で侵入を繰り返しているといった疑いがかかっている家のことだ。



 それにしても、大きな屋敷である。先ず門構もんがまえからして違う。
 「もともと、この辺りの地主だったんです。」と、町内会長さんが教えてくれた。

 代々政治家を輩出している家というものは、どこか威厳いげんに満ちていて近寄りがたい。
これは庶民ゆえの感情なのだろうか。もしも本当に父親が敷地内に入っているというのなら、相当なハートの持ち主か、または・・・。

 「見て下さい。あそこに一部分残されている石垣は、江戸時代後期のものらしいですよ」
敷地のほとんどはコンクリート塀に覆われているが、一角だけ、野面積のづらづみの石垣が見事なまでに残っていた。

 裏山に近づくにつれ、コンクリート塀にとって代わり、ヨシノスギの生け垣が見える。日本庭園があるのだろう。
立派な石灯篭や、綺麗に剪定せんていされた黒松が数本、まるで外をうかがうかのように並び立っていた。

 父親はそんな庭木を見上げながら歩いていたが、突如立ち止まった。
なにか考え事をしている様子である。わたしと町内会長さんも立ち止まり、顔を見合わせたそのときだった。
―――父親がふっ、と吸い込まれるようにして消えた。

 「あっ、まずい!」わたしは父親の消えた場所に急いで駆け寄った。
町内会長さんも後ろから着いてくる。
 「あっ……」父親は、生け垣と生け垣とのわずかな隙間に身を隠し、身体をかがめて、ゆっくり、ゆっくり、奥へと入って行くところだったのである。

 わたしは夢中で父親の腕を掴んだ。瞬間、父親は身体をびくりとさせ、小さく「うぎゃっ」とうめいた。そして、恐怖に満ちた表情でわたしをにらみ付けながら「しっ!」と、人差し指を自分の唇に当てた。

 「おいっ、ここでなにをしてるんだよ!」と、わたしが言いかけたときだった。
父親の口から、なにか呪文のような呟きが聞こえた。

 「こがら、こが……こがら」

 続けて、父親は「ピー、ピーピピ」と、下手くそな枯れた音色の口笛を吹きだした。
 「あ~、そういうことでしたか」背中から、町内会長さんの声がした。

 そして、「怒らないでください。大丈夫ですから。後はわたしに任せて」
そう言ってわたしを敷地の外に追いやるようにした。
町内会長さんは父親に、そおっと声をかけている。父親は見たこともない笑顔でそれに応じている。

 後から町内会長さんはこう言ってわたしに教えてくれた。

 「お父さんは鳴き声の美しい小鳥が好きなんですよ。実はわたしも昔、ウグイスやシジュウカラを飼っていましてね。少し前に法律で野鳥が飼えなくなってしまいまして、泣く泣く、野に放った経緯があります。どうやらお父さんも同じだったようです。」



 父親にそんな趣味と言うか、嗜好しこうがあるとは思いもよらなかった。

 「あぁやって口笛を吹いて鳥をおびき寄せるんですよ。そして、網にかけたり、鳥もちを使ってペタリとしたりね。懐かしいものです。お父さんから話を聞いたら、あそこの山は、愛鳥家たちがこぞって野鳥を獲りに来ていた場所だったらしいですよ。多分、当時はあのお宅の土地じゃあ無かったんでしょう。ほら、むかしは共有地とか多かったですし。あっ、わたしですか?いえいえ、わたしはそのことを知りません。この街にやってきたのは郵便局に勤めてからですし、自分で鳥を獲るのも下手くそでして、もっぱら誰かに頼んで獲ってきて貰ってと、そんな感じです。そうそう、向こうのお宅にもきちんと理由を話しておきましたから、今後は大目に見てくれるでしょう。」

 町内会長さんには感謝をしてもしきれない。
わたしの目には父親の行動が、何物かにりつかれたかのような奇妙な行動にしか見えなかったからだ。

 もしも町内会長さんが一緒にいなかったら、わたしは頭ごなしに父親を叱りつけ、力づくでも連れ帰っていたところだろう。
結局は何の解決にも至らず、最悪、警察に通報されてしまっていたかも知れない。
それを考える度、いまだにほっと胸を撫で下ろす。

 「おい、“ こがら ” 見つけたか?」
 「いつも、朗らかだ!」
 「じゃなくて、こ・が・ら ? 」
周波数が違うのだろうか。わたしと父親の会話は噛み合った試しがない。

 「鳥を見て来たんだろ?」
 「のり?朝に食った」
町内会長さんとは普通に会話を交わしているのだから、わたしに対しては意図的かも知れない。
 
 「ピー、ピーピピ、ピー、」 
と、無意識のうちに口笛を吹いているのだから。


おわり

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あとがき【老いると子供に戻る!】

 “ 老いると子供に戻る ” あくまでわたしの父親の場合ですが、それは本当なのだと思います。

 わたしたちでも童心に帰るといった瞬間があります。
高齢者の場合はその瞬間、現実の世界一切合切いっさいがっさいを切り離すことができるのでしょうね。
父親の行動は無邪気そのものでした。

 ひとりでお年寄りの世話をしていると、どうしても周りが見えなくなるものです。
わたしもそんなひとりです。

 しかしこの一件から、“ 自分一人の力じゃどうしようもないこともある ” のだってことを知らされました。

 どうか、介護の現場で日々頑張っている方々、誰にでもいいから、些細なことでも相談してみましょう

 介護問題について思うこと【介護電話相談窓口】

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