スポンサーリンク

若き日キャンプ場にて(前編)【軽ワゴン車で旅する老人】

限られた時間の中でのスローライフ
スポンサーリンク

はじめに【キャンピングカーへの憧れ】

 『流行り病』の影響なのでしょうか。最近は心なしか例年より “ キャンピングカー ” を多く見かけるような気がします。

 宿泊先や目的地を決めず、行く先々の土地で、ひとやもの風土や歴史などに直接手で触れながら旅を楽しめるなんて、本当に羨ましい、の一言に尽きます。

 しかしながら、そんな旅を楽しめるのは限られた、ほんの一握りの人間でしょう。
時間・そして心の余裕と、余裕が三拍子揃っていないと実現は難しいと思います。

 信号待ちをしながら、何気なくそのようなことを考え、道行くキャンピングカー見送ったとき、遠い記憶がわたしの脳裏から、鮮やかに呼び起こされました。

 あれはまだ、わたしが夢や希望に満ち溢れていた、二十歳の頃のことでした。

スポンサーリンク

若き日キャンプ場にて(前編)【軽ワゴン車で旅する老人】

 人里離れた自然林の中に、人々から忘れ去られた、ちっぽけなキャンプ場がひっそりと、まるで身を隠すかのように存在していた。

 バブル時代の忘れ形見なのか。20坪はあるだろうと思われる、ログハウスが三棟建てられてはいるが、いずれにも立ち入り禁止の看板がかけられている。

 ガイドブックはおろか、町の観光マップにも載っていない。
看板も錆び付いていて、見つけられず二度ほど、車を通り過ぎた。

 なぜそのようなキャンプ場に行ったかと言うと、前回のキャンプ中、他の客といさかいを起こしたからだ。それなりに名の知れたキャンプ場だっただけに、利用者は多い。
なかには泥酔して騒ぐ人間もいるのだから、必然、揉め事も多くなる。

 社会の喧騒けんそうから逃れ、自然に癒しを求めに来ているというのに、たまったもんじゃない。

 「次回は必ず、誰も行かなさそうなところにしようぜ」
仲間のひとりがそう言った。他の誰もが心の中で思っていたことだから、みんなが同意した。
そんな理由わけで、このキャンプ場を探し出したのだ。

 一応、管理人はいた。一応と言うからには理由がある。
やる気の無さが態度に現れていたからだ。いらっしゃいませ。の一言もない。
 「はい、1000円。薪とか炭が必要なら別料金。ここに書いてあるから」

 言いたいことは色々とあるが、ともかく、入口で管理人に利用料を渡して、キャンプ場に入った。中は意外に広い。野球場くらいはあるだろうか。

 しかし残念なことに、その大半は草がボウボウ、伸び放題で、実際にキャンプのできる場所は、テニスコート二面くらいか。予想通り、他の利用者はいなかった。
そのときのメンバーはわたしも含めて四人である。

 とりあえず、テントを設営し終えたとき、誰かが「この近くに露天風呂があるらしいぜ」と言った。「まじか、混浴か?」こうなったら、若さってやつは予定や段取りを簡単にくつがえす。

 「おい、飯の準備が先だろ!」と、誰かが言ったが、三対一の反対多数で否決された。

 露天風呂の場面は省略する。掃除が行き届いておらず、お湯に虫が浮いていたからだ。無論、混浴でも無かったのだから、仲間たちは一同、意気消沈いきしょうちんしてキャンプ場に戻った。

 キャンプ場には、わたし達の車と、管理人のものと思われる軽トラック、そして、軽ワゴン車が一台停まっていた。新しい客人きゃくじんだ。



客人は、わたしたちが張ったテントの近くで火をおこし、飯盒はんごうで米を炊いていた。

 「こんにちは!」
近づくわたし達にむけて飯盒の持ち主は、腹の底から元気な挨拶をしてきた。わたし達も口々に挨拶を返した。

 「元気がないなあ」
飯盒の持ち主は、(近頃の若者ときたら)とでも言いたげな表情をしながらそう言った。その表情は西日と炎に照らされ、紅く染まっている。

 わたし達も、さてと夕食の準備を始めたとき、飯盒の持ち主は「手伝うよ」とぶっきらぼうに言った。飯盒の持ち主のことは、これからAさんと言おう。
Aさんの年齢は七〇歳だ。本人が名前を名乗る前に年齢のほうから教えたのだから間違いはない。

 わたしが見たところだと六〇歳くらいにしか見えない。筋骨は隆々りゅうりゅうとしていて、髪の毛も真っ黒で、仲間のひとりよりも、毛根が倍以上ありそうだ。
何よりも動きが機敏である。いつの間にか、「それは、違う!」とか、指図をされている始末だ。

 こうしてわたし達はAさんのペースへと、徐々に巻き込まれていくことになった。

 夕食の支度を終えた頃には、日が沈んでいた。
管理人は「火の始末には十分気を付けて」と、偉そうに言い残して、帰って行った。

 わたし達の夕食は月並みだが、カレーライスだ。
味付けはAさんである。Aさんは自分の軽ワゴン車から、様々なスパイスやブイヨン、そしてブロックのハムなどを持って来ては鍋に放り込み、そして味見をし、しばらく考え込んでは、また軽ワゴン車に行き、今度はバターや蜂蜜を持って来て、鍋に流し入れた。

 「完璧だ!食って良し!」
Aさんが号令をかけると、わたし達は一斉に食べ始めた。
キャンプで食べるような味ではない。まるで、下町の洋食屋さんで食べているかのような味だった。

 誰もが会話を忘れ、夢中で食べ進めている。
そんなわたし達の姿をAさんは満足そうに眺めながら、「海上自衛隊のカレーの味だよ」と、なつかむよう、眼を細めながら言った。
それから、Aさんは自分自身の昔語りを始めた。


つづく

若き日キャンプ場にて(後編)【老人の旅の目的とは?】

コメント

タイトルとURLをコピーしました