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『論語』現在に生き続ける孔子の教え【コミュニケーション編】

こころを豊かにするメソッド
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はじめに【和を以て貴しとなす】

 聖徳太子が作ったとされる『十七条の憲法』の第一条に「和をもって尊しとなす」という言葉が出てきます。詳しく説明するまでもないのですが「何事をやるにも、みんなが仲良くやり、いさかいを起こさないのが良い。」といった意味の言葉です。

 この言葉の出典は『論語』であるとされています。

  禮之用和爲貴。[学而(がくじ)第一]
  礼の用は和を(たっと)しと()す。
  「礼を行うときは調和を尊重する。」


 外国の人に聞くと「日本人は礼儀正しい」と言われます。また「マナーやルールを重んじる」民族だと見られているようです。この日本人の特徴は、古くからの日本文化が現代にも影響を及ぼしているからと言えるでしょう。

 そんな日本文化の中には、大陸から伝来してきたものもあります。『論語』もそのひとつです。そのことは、前回 『論語』現在に生き続ける孔子の教え【学び編!】 にも書かせて頂きました。続けて、今回はコミュニケーションに役立つ教えをいくつか紹介したいと思います。

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『論語』現在に生き続ける孔子の教え【コミュニケーション編!】

孔子(こうし)とは?

 孔子(名は丘・字は仲尼)は中国、春秋時代の学者、思想家です。(前551‐前479)
()(すう)(山東省)に生まれますが、幼くして父母を失い、貧苦のなか独学で学問を修めます。

 早くからその才徳は知られ、壮年になって魯に仕えます。しかし、のちに官を辞して諸国を遍歴し、十数年間、諸候に仁を説いて回ります。晩年は魯に戻り、弟子の教育に専念します。

 儒教の祖として尊敬され、日本の文化にも古くから大きな影響を与えます。弟子の編纂(へんさん)になる言行録『論語』は、現在でも世界中で読まれています。


 湯島聖堂にある孔子像

『論語(ろんご)』とは?

 『論語』は孔子の弟子たちによって編纂された、儒教の経典です。
『大学』『中庸』『孟子』とともに「四書」の一つに数えられています。

 その説くところは日常生活に即した実践的倫理であり,孔子の思想を最もよく伝えています。設立に関しては諸説あります。

 現在では孔子の弟子たちの伝えた言行録が3系統あったものを孟子(もうし)の時代に編集して、『論語』の原本とも言うべき『古論語』が成立し、それが漢代までに選択整理されたと考えられています。

『論語』が生まれた時代背景

 孔子が生きた春秋時代の中国は、各地で領土を奪い合う、まさに群雄割拠の時代でした。

 孔子は、そんな世を憂いて、人間愛としての「仁」、心の主張としての「忠」、そして、親への孝行、年長者への(てい)(じゅん)などを説きました。

 また、利欲を離れて自己を完成させる「学」の喜びなども述べています。

日本人と論語

 『日本書紀』によれば、『論語』が日本に伝わったのは、応神天皇16年、百済から伝来したといわれています。そこから徐々に広まり、平安時代には漢籍の一つとして貴族の間で読まれていました。

 その後、日本で儒教が正式な学問として確立したのは江戸時代になってからです。第五代将軍徳川綱吉の時代には、儒学講義の場として湯島聖堂が建立され、近代教育発祥の地とされています。


    湯島聖堂

 また、諸藩も藩校(藩士を育成するための学校)を建てるなどして、儒学教育に力を入れるようになっていきます。弘道館(水戸藩)や致道館(庄内藩)などが有名です。それだけではなく、庶民の間でも寺子屋などで儒学を学ぶようになっていきます。

 明治時代になると徐々に廃れて行きますが、日本資本主義の父・渋沢栄一が『論語と算盤』を刊行したことで、『論語』の存在が、強く日本人の心に印象づけられます。



 渋沢は「正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができぬ」と、利益至上主義を諫めながら、企業活動にも『論語』の道徳が必要だと説いています。

孔子のことば【『コミュニケーション』について15の教え】

1.巧言令色。鮮矣仁。

 巧言(こうげん)令色(れいしょく)(すくな)し仁。[学而(がくじ)第一]

 「口達者で外見を飾る者には、仁がほとんどない。」

 どんなに言葉巧みに喋ったとしても、そこに真心がなければ相手には伝わりません。うわべだけの言葉を並べるより、誠実な気持ちで話すことが大切なのです。

2.不患人之不己知。患不知人也。

 人の己を知らざるを(うれ)えず、人を知らざるを(うれ)うるなり。[学而(がくじ)第一]

 「他人が自分を理解しないことについては気に病むな。他人を理解しないことについては注意しろ。」

 人から評価されたいと思うのは自然なことです。しかし、それを気にするあまり、人間関係に悪影響を及ぼしたりすることもあります。人に認めてもらえないことを憂うよりも、先ずは自分から人を認めるようにしましょう。認めることで人と心が繋がるのです。

3.君子欲訥於言。而敏於行。

 君子(くんし)(げん)(とつ)にして、(おこな)いに(びん)ならんことを(ほっ)す。[里仁(りじん)第四]

 「君子は、口数を少なくして、実行には敏捷(びんしょう)でありたいと願う。」

 言葉を飾り立てるよりも実際に行動をし、結果を示すほうが説得力は増します。堅実な行動こそが周りにその意思を伝えることができるのです。

4.德不孤。必有鄰。

 (とく)()ならず、(かなら)(となり)()り。[里仁(りじん)第四]

 「徳のある者は孤立しない。必ず仲間がいるものだ。」

 大切なのは、多くの人と関わることより、一人ひとりと誠実に向き合うことです。誠実に人と向き合っていれば、孤立と無縁の人生になっていきます。そして必ずそばで助けてくれる人が現れるものです。

5.不遷怒。不貳過。

 怒りを(うつ)さず、過ちを(ふたた)びせず。[雍也(ようや)第六]

 「怒りによる八つ当たりはせず、過ちを繰り返しません。」

 ときには誰かに怒りをぶつけて、発散したくなる気持ちも分かります。しかし、それでは何の解決にもなりません。逆に事態を荒げてしまったり、人間関係を壊してしまう恐れもあります。常に心に余裕を持って、人と接するべきなのです。

6.不在其位。不謀其政。

 ()(くらい)()らざれば、()(まつりごと)(はか)らず。[泰伯(たいはく)第八]

 「その地位にいなければ、その政務に口出しをしない。」

 人の仕事ぶりを見ていると、ついつい余計な口を出してしまいたくなるものです。それがもしも逆の立場ならどんな気持ちになるでしょう。余計なお節介だと思うかも知れません。見守りつつも、任せる度量が必要なのです。

7.浸潤之譖。膚受之愬。不行焉。可謂明也已矣。

 浸潤(しんじゅん)(そしり)膚受(ふじゅ)(うったえ)(おこな)われざるは、(めい)()うべきのみ。[顔淵(がんえん)第十二]

 「心にしみこんで広がるような讒言や、皮膚に実感を受けさせるような讒訴に従って行動しないなら、賢明と言うことができる。」

 悪口など、感情によって放たれる言葉というものは、受け止めた人の心を動かしやすいものです。人間関係に情は大切です。しかし、陰口や情に振り回されない冷静さこそが正しい判断に繋がるのです。

8.忠告而善道之。不可則止。

 忠告(ちゅうこく)して(これ)善道(ぜんどう)し、不可(ふか)なれば(すなわ)()む。[顔淵(がんえん)第十二]

 「忠告してよくなるようにこれを導く。聞かなければやめる。」

 友人や同僚が間違いをしたり、悪い方向に向かっていると感じたときは、注意をしてあげたいと思うものです。しかし、タイミングが悪ければ、気分を害してしまったりと逆効果になる恐れがあります。忠告は効果的に伝わる時を狙って、さりげなくするべきなのです。

9.有德者必有言。有言者不必有德。

 (とく)()(もの)は必ず(げん)()り。(げん)()(もの)(かなら)ずしも(とく)()らず。[憲問(けんもん)第十四]

 「徳のある人はきっとよい言葉がある。よい言葉のある人は必ず徳があるとは限らない。」

 いくら口先で立派なことを言っても、実際には行動が伴わない人がいます。本人に中身がなくても、何かの受け売りで、いくらでもそれらしいことは言えてしまうからです。行動にそれは如実に表れます。つまり、発言ではなく、その人の行動や振る舞いで判断するべきなのです。

10.己所不欲。勿施於人也。

 (おのれ)(ほっ)せざる(ところ)は、人に(ほどこ)すこと()かれ。[衛霊公(えいれいこう)第十五]

 「自分の望まないことは、他人にすることがないように。」

 知らず知らずのうちに不快な行動、または言動をしている場合があります。そういうことをしていないか振り返ってみましょう。自分がされて嫌なことは他人がされても嫌なものです。思いやりこそが人間関係の基本なのです。

11.辭達而已矣。

 ()(たっ)するのみ。[衛霊公(えいれいこう)第十五]

 「外交文章は、内容が通じるだけでよい。」

 言葉は相手に伝わってこそ意味があります。最近良く見かけるのは、格好をつけたいがために横文字や、難しい言葉を使って話している場面です。結局それで伝わらなければ生きた言葉とは言えません。先ずは自分が伝えたいことを明確にし、真っすぐに表現することを心掛けるべきです。

12.君子矜而不爭。羣而不黨。

 君子(くんし)(きょう)にして(あらそ)わず、(ぐん)して(とう)せず。[衛霊公(えいれいこう)第十五]

 「君子は、誇りを持つが争わない。広く交際するが党派は作らない。」

 自分とは違う意見を持つ人に、必要以上に攻撃をする人間がいます。挙句の果てには、その人の人格までを否定したり・・・。自分の信じることを大切にしつつも、異なる考えや意見を尊重し、良いものは取り入れるといった姿勢が肝心なのです。

13.可與言。而不與之言。失人。不可與言。而與之言。失言。

 (とも)()うべくして、(これ)()わざれば、(ひと)(うしな)う。(とも)()うべからずして、(これ)()えば、(げん)(うしな)う。[衛霊公(えいれいこう)第十五]

 「ともに話すべきなのに、その人と話さないと、人を取り逃がす。ともに話すべきでないのに、その人と話すと、失言をする。」

「 あの時、話しておけば」「あの状況で話すべきじゃなかった」。こんな感じで後悔した経験は誰にでもあると思います。その人の置かれている立場や経験を考慮に入れて、それに応じたメッセージを送ることが必要なのです。

14.躬自厚而薄責於人。則遠怨矣。

 ()(みずか)(あつ)くして、(うす)(ひと)()むれば、(すなわ)(うら)みに(とお)ざかる。[衛霊公(えいれいこう)第十五]

 「自分自身に厳しくして、あまり他人を責めないようにすると、(他人の)怨みから遠ざかる。」

 自分の間違いを厳しく反省しつつ、次に活かすことが、飛躍に繋がります。反対に、他人のミスを取り上げて非難することは、ただその人からの恨みを買うだけです。他人の失敗もその人にとっては成長過程なのです。他人には寛大に、そして自分には厳しくありたいものです。

15.不知言。無以知人也。

 (げん)()らざれば、(もっ)(ひと)()()きなり。[堯曰(ぎょうえつ)第二十]

 「言葉を知らないと、人を知ることができない。」

 人の言葉に耳を傾けてみましょう。そして意味を理解したうえで、考えてみましょう。発言の真意を見極めることができたら、その人を知る手がかりになるのです。

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あとがき【吾れ十五にして学に志す】

 広く親しまれている論語の中でも、最も有名なのは「吾れ十五にして学に志す。(為政(いせい)第二)」かもしれません。これは、孔子が自分の人生を簡潔にまとめたものとして読むことができます。

 15歳………学問を志す。
 30歳………自主・独立する。
 40歳………迷うことなく、自分の道を進むようになる。
 50歳………自分が何のために生きているのかを知るようになる。
 60歳………他人の言葉を素直に聞けるようになる。
 70歳………思うままに振る舞っても、道を外すようなことはなくなる。


 さて、自分の人生を照らし合わせて見ますと、本当に情けない限りです。人生の半分を生きてきたにも関わらず、未だ志すら見つかっておりません。とりあえず、遠い先の未来を思い描くことから始めてみようかな?なんて思っています。決して遅くはない筈です。(自分を鼓舞!)

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