はじめに【オー・ヘンリーとの出会い】
「十年一昔」といった言葉があります。―――世の中は移り変わりが激しく、十年もたつともう昔のこととなってしまうといった意味の言葉です。そうなると二十年という歳月は、ふた昔ということになるでしょうか。
さて、オー・ヘンリーの『二十年後』を最初に読んだのは、確か高校のときだったと思います。なんか、ヘミングウェイとかオー・ヘンリーを読む自分って(恰好良くない?)みたいな優柔不断な動機だったと記憶しています。
とにかく、背伸びしたかった年頃だったのでしょう。で、この物語を読んだ後、当時は親友だと思っていた同級生に「二十年後に必ず再会しょう。」なんて言ったものです。その同級生は当然、キョトンとしていました。
良かったのか悪かったのかは別にして、それくらい、オー・ヘンリーの作品には影響を受けました。後に、刑事映画やドラマにハマっていくのも『二十年後』という作品に出会ったからです。
オー・ヘンリー『二十年後』あらすじと感想【歳月人を待たず!】
オー・ヘンリー(O. Henry)とは?
19世紀から20世紀初頭にかけて活躍したアメリカの小説家です。本名・ウィリアム・シドニー・ポーター(William Sydney Porter)(1862年~1910年)
オー・ヘンリーは1862年、アメリカのノースカロライナ州グリーンズボロという町に、医師の息子として生まれます。3歳のとき母親は亡くなり、叔母の手で育てられます。また教育者でもあった叔母の私塾で教育を受けます。
その後、テキサス州に移り住んだオー・ヘンリーは、銀行や不動産会社、土地管理局等の職を転々とします。またこの頃、結婚もしました。1896年、以前に働いていた銀行の公金横領の疑いで逮捕されます。
しかし、横領容疑の裁判にかけられる直前、病気の妻と娘を残し、ニューオリンズ、さらに南米ホンジュラスへと逃亡します。その後、逃亡先に妻の病状の悪化を伝える知らせが届き、家に戻ります。しかし妻は先立ってしまいます。
裁判では懲役5年の有罪判決を言い渡されますが、模範囚としての減刑があり、実際の服役期間は3年と3か月でした。オー・ヘンリーはこの服役中に短編小説を書き始め、その作品を新聞社や雑誌社に送り、3作が出版されます。
刑務所を出てから本格的に作家活動を開始し、一躍注目を集め、人気作家となります。代表作に『最後の一葉』『賢者の贈り物』等があり、500編以上の作品を残し、短編の名手と呼ばれます。しかし過度の飲酒から健康は悪化し、筆力も落ちていきます。1910年、47歳という短い生涯を終えました。
オー・ヘンリー
作者の生きた時代
オー・ヘンリーが生きた19世紀から20世紀初頭にかけてのアメリカ合衆国は、鉄鋼業や石油業が繁栄したことで、経済的に大きく躍進していました。領土的にも北米や太平洋圏の島々を植民地化するなど、まさにアメリカ黄金期ともいえるものでした。
しかしその反面、まだ西部開拓時代の名残も留めており、人種差別や、多発する犯罪など、多くの問題も抱えていました。そんな時代背景のなか、オー・ヘンリーの作品は生まれていきます。
オー・ヘンリー自身も、獄中生活、そして裁判中の逃亡生活を送ったことがあるせいか、彼の作品には、犯罪者と刑事(警官)が多く登場します。しかし、その物語は人情味が溢れていて、どこか古き良き日のアメリカを思い起こさせてくれます。
『二十年後(After Twenty Years)』あらすじ(ネタバレ注意!)
ひとりの警官が、街を巡回しています。時刻は夜の10時くらいでした。が、ほとんど人通りは絶えています。この日は小雨を含んだ風が冷たかったからでしょう。とある区画に入ると、その警官は、歩くスピードを落としました。
灯りを落とした金物屋の戸口にひとりの男が寄りかかっていたのです。警官が近づいて行くと、その男は「なんでもないよ、お巡りさん。友だちを待っているだけさ!」と、言います。そして、その男はマッチをすって葉巻に火をつけました。その灯りは男の顔を照らします。
目つきはするどく、右の眉のあたりには傷跡がありました。男は、かつてこの場所にあった“ビッグ・ジョー・ブレイディー”という店で、とある男と「二十年後に再会をする約束をした。」と言います。
相手の名前は、ジミー・ウェルズといって、男はジミーと兄弟のように育ったと警官に教えます。そして、「自分は一山当てようと西部に出発したのだが、ジミーはニューヨークをどうしても出たがらなかった。」と話します。
それから「お互いがどんな境遇になっていようと、あの日あの時刻からきっちり 二十年後にもう一度会おう。」と約束して別れたと警官に教えます。警官は「二十年とは間が空きすぎですね。別れてから消息は無かったのですか?」と、男に訊ねます。
男は、「しばらく手紙のやり取りはあったんだが、そのうちにお互い消息がつかめなくなったのさ。」と言い、続けて「あいつは誰よりも誠実なやつだったんだから、生きてさえいれば必ず会いに来てくれるに違いない。そういうやつなんだ。」と、話しました。
警官は、一、二歩と歩き出しながら、「私はもう行きます。その友だちがちゃんと来てくれるといいですね。」と言い「その時間までしか待たないおつもりですか?」と、訊ねます。男は「30分は待ってやります。」と答え、警官は「おやすみなさい」と言い残して、巡回へと戻って行きました。
男は小雨の中、葉巻をふかしながら、辛抱強く待ち続けます。そうして20分ほど経ったときです。ロングコートを着た長身の男が、小走りで駆け寄って来ました。そして疑わしげに「ボブか?」と尋ねます。戸口にいた男は「ジミー・ウェルズか?」と叫びます。
二人は固く手を取り合います。長身の男は西部から来た男に「西部ではどうしてる?」と聞きます。男は「思い通りさ。欲しいものは何だって手に入る。」と答え、「お前はずいぶん変わったな、背も高くなって。ところでニューヨークでは上手くやってるのか、ジミー?」と聞き返します。
長身の男は「俺は二十歳を過ぎてから背が伸びてね。」と言い「市役所に勤めてるんだ。なあボブ、馴染みの店があるから、そこでゆっくり昔の話でもしようじゃないか。」と誘います。二人は腕を組んで、通りを歩き出します。
西部から来た男は、歩きながら、今までの出来事や功名を語ります。長身の男はそれを興味深げに耳を傾けていました。街角には、電灯で店先を明るくしたドラックストアが一軒建っています。そこの前を通ったときです。二人はお互いの顔を同時に見交わしました。
西部から来た男はぴたりと足を止めて、組んでいた腕を振りほどきます。そして「おめえ、ジミー・ウェルズじゃねえな!二十年と言ったって、鼻の形が鷲鼻から獅子鼻になるわけがねえ!」と、かみつくように言いました。
長身の男は「シルキー(口の上手い)・ボブ、お前はもう十分前から逮捕されている。大人しく来てくれるな?そのほうが身の為だ。とりあえずこのメモを渡してくれと頼まれている。」と言い、西部から来た男に小さな紙切れを渡しました。
「ボブへ。俺は時間どおりに約束の場所に行ったよ。お前が葉巻に火をつけようとマッチをすったとき、俺はその顔がシカゴで手配されている男の顔だと気づいた。といっても、俺の手でお前を捕えるのが忍びなかった。だから俺は一旦引き上げて、後の仕事を私服の刑事に任せたのだよ。ジミーより。」
あとがき【『二十年後』の感想も交えて】
二十年といった歳月は、人間を聖人にも変えるし、また愚人にも変えます。シルキー・ボブはその大切な二十年間を「一山当てる」といった己の欲望の為に使います。やがてその欲望を満たす手段として犯罪にまで手を染めるようになっていきました。
その一方で、ジミー・ウェルズは犯罪から市民を守る警官になっています。なんと皮肉な運命でしょうか。もしもこの二人が離れずにいたら、どのような運命を辿っていたでしょう。しかしながら、“ 歳月人を待たず ” なのです。
時間というものは、人の都合とは関係なく、刻々と過ぎていくもので、決して人を待ってくれることなどありません。ですから、二度と戻らない時間を無駄にしないように常に心掛けていたいものです。
そんなわたしも、「二十年後に必ず再会しょう。」と話した同級生とも結果的に仲違いし、何度も転職を重ね、結婚にも失敗するわで、犯罪には手を染めていないにせよ、シルキー・ボブ側の人間でした。
その反省をこめて、次の二十年は時間を無駄にしないように努めたいと思いながら、『巡査と讃美歌』のページをめくるのです。
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