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オー・ヘンリー『自動車を待つ間』【自分を繕ったとしても!】

名著から学ぶ(海外文学)
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はじめに【オー・ヘンリーとの出会い】

 わたしがオー・ヘンリーの作品を読み始めたのは高校に入って間もなくの頃でした。動機はかなり不純で、当時好意を抱いていた女性が図書室でオー・ヘンリーを読んでいたのを見かけたからです。

 つまり、同じ小説を読んで、お近づきの(話しかける)きっかけを作りたかったのです。それから代表作を含めて20作品くらいは読んだでしょうか。そしてついにチャンスが訪れます。とある課外授業で、わたしとその憧れの女性が同じグループになったからです。

 わたしは思い切って「図書室でオー・ヘンリーを読んでたよね?実は俺も好きなんだよね」と、話しかけました。女性の眼はみるみるうちに輝いていきます。(わたしにはそのように見えました)

 そして当然のように「どの作品が好き?」といった会話になります。わたしはしたり顔で、有名な作品のタイトルを2、3上げました。彼女はそのとき、わたしがまだ読んでいない3作を上げたのです。その後の会話が続かなかったことは言うまでもありません。

 ちなみに彼女が最初に上げた作品が、今回のブログで紹介する『自動車を待つ間』です。

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オー・ヘンリー『自動車を待つ間』【自分を繕ったとしても!】

『自動車を待つ間』は傑作集『賢者の贈り物』に収められています。

オー・ヘンリー(O. Henry)とは?

 9世紀から20世紀初頭にかけて活躍したアメリカの小説家です。本名・ウィリアム・シドニー・ポーター(William Sydney Porter)(1862年 – 1910年)

 オー・ヘンリーは1862年、アメリカのノースカロライナ州グリーンズボロという町に、医師の息子として生まれます。3歳のとき母親は亡くなり、叔母の手で育てられます。また教育者でもあった叔母の私塾で教育を受けます。

 その後、テキサス州に移り住んだオー・ヘンリーは、銀行や不動産会社、土地管理局等の職を転々とします。またこの頃、結婚もしました。1896年、以前に働いていた銀行の公金横領の疑いで逮捕されます。

 しかし、横領容疑の裁判にかけられる直前、病気の妻と娘を残し、ニューオリンズ、さらに南米ホンジュラスへと逃亡します。その後、逃亡先に妻の病状の悪化を伝える知らせが届き、家に戻ります。しかし妻に先立たれてしまいます。

 裁判では懲役5年の有罪判決を言い渡されますが、模範囚としての減刑があり、実際の服役期間は3年と3か月でした。オー・ヘンリーはこの服役中に短編小説を書き始め、その作品を新聞社や雑誌社に送り、3作が出版されます。

 刑務所を出てから本格的に作家活動を開始し、一躍注目を集め、人気作家となります。代表作に『最後の一葉』『賢者の贈り物』等があり、500編以上の作品を残し、短編の名手と呼ばれます。しかし過度の飲酒から健康は悪化し、筆力も落ちていきます。1910年、47歳という短い生涯を終えました。

  オー・ヘンリー

作者の生きた時代

 オー・ヘンリーが生きた19世紀から20世紀初頭にかけてのアメリカ合衆国は、鉄鋼業や石油業が繁栄したことで、経済的に大きく躍進していました。領土的にも北米や太平洋圏の島々を植民地化するなど、まさにアメリカ黄金期ともいえるものでした。

 しかしその反面で、まだ西部開拓時代の名残も留めており、人種差別や、多発する犯罪など、多くの問題も抱えていました。そんな時代背景のなか、オー・ヘンリーの作品は生まれていきます。

 オー・ヘンリー自身も、獄中生活、そして裁判中の逃亡生活を送ったことがあるせいか、彼の作品には、犯罪者と刑事(警官)が多く登場します。しかし、その物語は人情味が溢れていて、どこか、古き良き日のアメリカを思い起こさせてくれます。

『自動車を待つ間(While the Auto Waits)』あらすじ(ネタバレ注意!)

 夕方の静かな公園のベンチに腰をかけ、いつも一人で読書をしている若くて美しい女性がいました。女性は毎日同じ時刻にやって来ます。そして、この女性に好意を持ちつつも、いつも遠くから眺めているだけの一人の青年がいました。

 そんな青年に幸運が訪れます。女性の指先から本が滑り落ちたのです。青年はこの機会を逃さず、すかさず本を拾い上げて、女性に声をかけたのでした。女性はあわてることなく青年に「お掛けになって。」と、言います。

 決して男前というわけでもない青年は、喜んでその言葉に従い、女性の横に座り込みました。そして一般女性の喜びそうなセリフを口にします。すると女性は「そこいらの女と一緒にしないで下さい。」と言い、機嫌を損ねてしまいました。

 青年が慌てて謝罪すると、女性は「わたくしから話しかけたのは、どうしてだと思います?」と訊ねてきます。青年は「パーケンスタッカーといいます。」と自分の名前を告げて次の言葉を待ちました。

 すると女性は、自分が高貴な家柄の人間だと明かし、「たまには普通の人とお話ししたいと思いましたの。」と、言いました。つまり女性は、金持ち達の形骸化(けいがいか)した贅沢にうんざりして、庶民の生活ぶりを見て楽しんでいると言うのです。

 そして女性は、「シャンパングラスの中で氷が鳴るだけで気が狂いそうになる。」と、青年に告げます。青年が「シャンパンはボトルのままで冷やすものだと思っていました。」と口を挟むと、「前例にとらわれていたら何の楽しみもありませんの。」と、言ったのでした。

 続けて女性は「もし男の人を愛するなら、下流の方がよろしいのかもしれません。」と言い、現在、ドイツの大公とイギリスの公爵の二人から求婚を受けていると告げ、青年に職業を尋ねます。

 青年は「労働者です。」と毅然と言い、公園沿いにある一軒のレストランを見ながら「あの店の会計係です。」と女性に告げます。すると女性は、左腕の時計を覗いて、そそくさと立ち上がり、「これからディナーがあるから、もう急がないと。」と、言いました。

 そして女性は「運転手を待たせているから。」と言って、立ち去ろうとします。青年は女性の車まで送ろうと申し出ますが、自分の名前が刻印されたナンバープレートを見られては困るからといった理由で、その申し出を断りました。

 女性は夕闇の中を帰って行きます。青年は女性に見つからないようにその後をつけて行きます。すると女性は、待たせていると言った自動車を素通りして、奥の青年が働いていると言ったレストランに入り、そこの会計の席に座ったのでした。

 青年は、ゆっくりと後戻りをします。そのとき青年は何かを蹴飛ばしました。見るとそれは女性が読んでいた本だったのです。青年はその本を放り投げ、女性が待たせていると言った自動車に乗り込むとこのように言います。

―――「クラブへ行ってくれ、アンリ。」


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あとがき【『自動車を待つ間』の感想を交えて】

 わたしの「オーヘンリーお近づき大作戦」は数日後に、彼女には彼氏がいるということを知って呆気ない幕切れとなってしまいましたが、それからもオーヘンリーの作品は読み続けました。特に彼女が好きだと言った3作品は何度読み返したか分かりません。

 『自動車を待つ間』は同作者の『理想郷の短期滞在者』同様に、貧しい者が背伸びをして、お金持ちを演じるストーリーとなっています。主人公の女性とまではいきませんが、当時のわたし自身も背伸びをしてオーヘンリーが好きだと言いました。

 けれども、自分を取り繕ったとしても、いつか(ほころ)びが出るものです。主人公の女性はシャンパンの冷やし方が分かりませんでした。わたしも有名どころではない作品の話題には閉口したものです。

 それからも学習能力のないわたしは、同じように背伸びをして何度も失敗を繰り返しました。それでもいつかは言ってみたいものですね。運転手に―――「クラブへ行ってくれ。」と・・・。

オー・ヘンリー【他の作品】

オー・ヘンリー『最後の一葉』に【生きる意味を見いだす!】
『賢者の贈り物』オー・ヘンリー【愛の詰まったプレゼント!】
オー・ヘンリー『水車のある教会』に一縷の望みを見いだそう
オー・ヘンリー『罪と覚悟』【再チャレンジできる社会に!】
オー・ヘンリー『二十年後』【歳月人を待たず!】
オー・ヘンリー『理想郷の短期滞在者』【叶えよう変身願望!】
オー・ヘンリー『魔女のパン』【「してあげる」は自己愛!】
オー・ヘンリー『巡査と讃美歌』【人生とはままならないもの!】

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