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オー・ヘンリー『都会の敗北』あらすじ【田舎者のプライド!】

名著から学ぶ(海外文学)
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はじめに【大都会への憧れ】

 東京で暮らす人の半数近くは地方出身者と言われています。
日本の大学の約30%が東京に集まっていることも一つの要因とされていますが、「大都会への憧れ」から夢を抱いて上京する人も多いと思います。

 わたし自身そんな一人でしたが都会生活には正直戸惑いもありました。「田舎者」と馬鹿にされ、少しでも早く「都会」に馴染もうと必死で足掻いていた記憶があります。

 今になって思えば身体に沁みついていた「田舎臭さ」は簡単に取れるものではありませんでした。堂々と「田舎者」を前面に出していたら、違う都会生活になっていたのかも知れない。なんてつい思ったりもします。

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オー・ヘンリー『都会の敗北』あらすじ【田舎者のプライド!】

『都会の敗北』はO・ヘンリー傑作集Ⅲ『魔が差したパン』(新潮文庫)に収められています。

オー・ヘンリー(O. Henry)とは?

 19世紀から20世紀初頭にかけて活躍したアメリカの小説家です。本名・ウィリアム・シドニー・ポーター(William Sydney Porter)(1862年~1910年)

 オー・ヘンリーは1862年、アメリカのノースカロライナ州グリーンズボロという町に、医師の息子として生まれます。3歳のとき母親は亡くなり、叔母の手で育てられます。また教育者でもあった叔母の私塾で教育を受けます。

 その後、テキサス州に移り住んだオー・ヘンリーは、銀行や不動産会社、土地管理局等の職を転々とします。またこの頃、結婚もしました。1896年、以前に働いていた銀行の公金横領の疑いで逮捕されます。

 しかし、横領容疑の裁判にかけられる直前、病気の妻と娘を残し、ニューオリンズ、さらに南米ホンジュラスへと逃亡します。その後、逃亡先に妻の病状の悪化を伝える知らせが届き、家に戻ります。けれども妻に先立たれてしまいます。

 裁判では懲役5年の有罪判決を言い渡されますが、模範囚としての減刑があり、実際の服役期間は3年と3か月でした。オー・ヘンリーはこの服役中に短編小説を書き始め、その作品を新聞社や雑誌社に送り、3作が出版されます。

 刑務所を出てから本格的に作家活動を開始し、一躍注目を集め、人気作家となります。代表作に『最後の一葉』『賢者の贈り物』等があり、500編以上の作品を残し、短編の名手と呼ばれます。しかし過度の飲酒から健康は悪化し、筆力も落ちていきます。1910年、47歳という短い生涯を終えました。

  オー・ヘンリー

作者の生きた時代

 オー・ヘンリーが生きた19世紀から20世紀初頭にかけてのアメリカ合衆国は、鉄鋼業や石油業が繁栄したことで、経済的に大きく躍進していました。領土的にも北米や太平洋圏の島々を植民地化するなど、まさにアメリカ黄金期ともいえるものでした。

 しかしその反面、まだ西部開拓時代の名残も留めており、人種差別や、多発する犯罪など、多くの問題も抱えていました。そんな時代背景のなか、オー・ヘンリーの作品は生まれていきます。

 オー・ヘンリー自身も、獄中生活、そして裁判中の逃亡生活を送ったことがあるせいか、彼の作品には、犯罪者と刑事(警官)が多く登場します。しかし、その物語は人情味が溢れていて、どこか古き良き日のアメリカを思い起こさせてくれます。

『都会の敗北(The Defeat of the City)』あらすじ(ネタバレ注意!)

 田舎を出たロバート・ウォームズリーは、都会で勝利を収め、財産と名声を手に入れます。都会はロバートを洗練された紳士にしました。その一方で、田舎者らしい彼の純朴な心を奪っていきました。

 六年前、北部の田舎の住民は、「馬鹿息子のボブ(ロバートの愛称)が出て行った。ここにいれば三度の飯にありつけるだろうに、都会に出たらそれも怪しいものだ。」と嘲笑したものです。

 ところが大都会で弁護士になり成功したとたん、「あれは地元の産だ。」と自慢げに語るようになります。ロバートの成功を決定的にしたのは、ヴァン・デア・プール家の令嬢で社交界の花形、アリシアを妻にしたことでした。二人の結婚は社交界をにぎわせます。

 ある日アリシアは、夫の母から夫宛てに届いた手紙を見つけ、「どうして今まで手紙を見せてもらえなかったの?」と夫に問いかけます。そして、「農場へいらっしゃいと言ってるわね。わたし、農場って見たことないのよ。一週間か二週間行ってみましょうよ。」と言ったのでした。

 妻からの言葉にロバートは動揺します。けれども絶対的な決定権を持つアリシアに対し、「じゃあ、行くとしよう。」と同意するしかありませんでした。「トランクは七つあればいわね。」アリシアは早速家政婦に命じて荷造りを始めます。

 一週間後、二人は五時間かけて田舎の小さな駅に到着します。駅にはロバートの弟・トムが馬車を引いて迎えに来ていました。あいにく車は畑作業で使っていると言うのです。「しばらくだな、トム。」ロバートは弟の手を握りました。

 その時駅舎から、薄手のモスリンの服を着たアリシアが、レースのついたパラソルを揺らしながら姿を現します。田舎に似つかわしくないその姿はまるで北欧の雪娘のようでした。するとトムは突然落ち着きをなくし、家に帰るまで決して口を開こうとはしませんでした。

 ロバートらは馬車に揺られながら家路をたどります。以前と変わらない田舎の風景でした。けれどもそんな風景の一つ一つがロバートの魂に語りかけてきます。大地の息吹、川のせせらぎ、動植物たちが揃ってロバートに、「お帰り」と言っているようでした。

 田舎の風景がロバートの心から都会を少しずつ()ぎとっていきます。そして家に着く頃には、田舎がロバートの心を捉えて離さなくなっていたのです。それはまるで昔の恋に引き戻された恋人同士のようでした。

 その夜、家族全員が顔を揃えます。アリシアは午後のお茶会にでも出るような薄いグレーのドレスを着て澄ましていました。ロバートの母親はおかまいなしに腰痛のことを嬉しそうに話します。トムと妹のミリーは田舎者まる出しで、はしゃいでいました。

 一方、父親はパイプを持たずに堅苦しい瘦せ我慢をしています。ロバートはそんな父親に、「かまうもんか。」と言い、パイプを持ってきて火をつけてあげました。時間が経つにつれ、ロバートは、すっかり昔の自分に戻っていきました。

 「トム、さっき都会の気障(きざ)なやつとか言っただろう。さあ、かかって来い!」兄弟は草の上で三度のレスリングを行います。勝敗はロバートの二勝一敗でした。それからのロバートは、唄を歌ったり踊り回ったりと、信じられないほどの馬鹿騒ぎをして羽目を外しました。

 そんな中アリシアは、「今日は疲れたので失礼します。」と言って、部屋に上がろうとロバートの前を通ります。今やロバートの姿から、上流階級を飾っていた人物の影も形もなくなっていました。

 この瞬間、ロバートははたと気づきます。妻がいたことをうっかり忘れてしまっていたのです。一時間ほど雑談をしてからロバートも部屋に上がります。アリシアは窓辺に立っていました。ロバートは溜息つきながら窓へと近づきます。

 (所詮(しょせん)は田舎の出なのだ。ヴァン・デア・プール家の人間なら厳密な線引きをするだろう。さっきまでの行動で化けの皮が剝がれてしまった……)ロバートは、宣告(せんこく)が下されるのを待ちました。

 「わたし、紳士と結婚したつもりでした。だけど、そうではありませんでした。」冷静沈着な判事の声がします。ロバートは、(来るものが来た)と覚悟を決めます。そしてアリシアはロバート近づいてこう言いました。

 「わたしが結婚したのは紳士ではなく―――もっと素敵な一人の男性だったのね。ねえボブ、私にキスしてちょうだい。」

 都会は遥か彼方に消え去っていきました。

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あとがき【『都会の敗北』の感想を交えて】

 『都会の敗北』の主人公・ロバートはいわゆる成功者です。成功することでお金持ちの令嬢・アリシアと結婚することができました。ですから妻のアリシアに田舎者という自分本来の姿を見せることはよっぽど勇気のいることだったでしょう。

 けれども結果的に自分をさらけ出したことで、アリシアのロバートへの愛は決して上辺だけのものではなかったと知ることができます。こうして物語はハッピーエンドを迎えますが、この結末に、「おいおい」と突っ込みたくなる人もいるでしょう。

 確かに現実社会ではこうはいきません。そもそも夢を現実にできるのは一握りの人間で、残りの大多数は夢とやらはどこかで、日々の生活を送るだけで精一杯です。けれどもこの物語のテーマは、「田舎者」というコンプレックスをさらけ出すというところにあると思います。

 都会には都会、田舎には田舎の良さがあります。生まれた土地、育った土地を離れることで、それまで気づかずにいた故郷の良さを再認識したという人も多いでしょう。ともかくとして「田舎者のプライドを大事に!」ということをこの作品は教えてくれています。

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