はじめに【「夢」について】
朝に目が覚めて、夢のなかで起こっていたことを、あたかも現実世界の出来事かと錯覚してしまうってことが、誰にでも一度くらいあるのではないでしょうか。
子供の頃は、良い夢なら「もう一度寝て続きを見よう」とまた布団に潜り込み、悪い夢なら「一時も早く忘れてしまおう」と飛び起きたりしました。
夢とは本当に不思議なものです。
「なぜ人は夢を見るのか?」科学者にそう問うても「未だ解明されていないです。」そんな回答を貰うだけでしょう。
高齢になると、疲れやすくなるせいなのか、寝床に入っている時間が長くなると言われています。とうぜん、うつらうつらとしている時間も増え、夢を見る回数も増えるようです。
わたしの父親も、夢と現実の区別がつかないことが多々あります。
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高齢者の睡眠障害!【記憶と現実の世界を行き来する老人】
記憶と現実の世界を行き来する老人
【実体験エピソード】
昨年の秋、父親が突如わたしに「次の休みのとき、連れて行って欲しいところがある」と、言ってきた。用件は「昔の知り合いが亡くなった。香典を届けに行く」ということだ。
隣の市である。交通アクセスが不便だから、バスを乗り換えしながら一時間半もかかる。車なら有料自動車道を使えば三十分くらいだろう。
(わたしに頼むことも道理にかなっている)
そう判断したわたしは、父親に付き添って隣の市に行くことにしたのである。
―――そして、道に迷った。
「おかしいな、おかしいな」父親は馬鹿の一つ覚えのように、この言葉を繰り返すだけだった。「連絡先を知らないのか?」と聞いても「知らねえ。でも家を知ってるから大丈夫だ!」
父親が故人について、連絡先どころか、その名前さえも憶えていない事実は、当日、隣の市に入ってから知った。(大丈夫じゃないだろ、その家も忘れたくせに……)
わたしは、「名前を思い出してからまた来よう」と、言った。けれども、父親は頑として帰ろうとしない。それから、一時間以上が経過した頃である。
父親が「あの家だ!」と、一軒の家を指さした。
「ごめんくださ~い」チャイムを押しながら父親は声を出した。横のわたしがびっくりするほどの大声である。「は~い」奥から男の人の太くて曇った声が聞こえた。
「どちらさまですか?」玄関の戸をガラガラと横に滑らせながら、家の住人が言った。「○○市の○○です。この度は……」と、父親は言いかけてから、何故か口を閉ざしてしまった。
わたしは、父親の代わりに、「これこれこんなわけで」と、この家の住人に来訪の理由を話した。住人は、「確かに父も母も亡くなっていますが、それは十年以上も昔のことです。」と、言った。
―――その日を境に父親は、わたしと口を利かなくなった。
意思疎通の方法は首を縦に振るか横に振るかだけである。父親に対し、(何か気の障ることを言っただろうか?)と、何度考えてもみても思い当たる節がない。
人と会うことさえも避けているような気がした。昼寝の時間も長くなり、一日の大半を布団の中で過ごすようになっていった。「具合が悪いのか?」と、声掛けをしても、首を横に振るだけである。
そんな日々を過ごしているとき、わたしの “ 何気なく言った言葉 ” に父親は反応した。
「知り合いの不幸があった家、そろそろ思い出したかい?」最初はダンマリだったが、そのうち何やら、もごもごといった喋り声が聞こえてきた。
父親の枕元に耳を近づけてみた。「……てた」―――良く聞こえない。もっと近づけてみる。「…きてた」―――分からない。もう一度耳を澄ます。
「生きてた……」そして続けて「○○が……」と、男の名を言った。
それから根気強く、ゆっくりと、父親に訊ねた。そのうち物事の真相が、おぼろげに輪郭を表し始めてきた。父親の言葉を、ひとつひとつ、パズルのように繋ぎ合わせていくと、こんなところである。
先ず、結論から言うと、父親の訪問した家は、間違いなく昔の知り合いの家だったということだ。そして、「生きてた」とは、玄関先で対応に出た、知り合いの息子を見て、故人と錯覚したのだろう。とは言っても、その知り合いは十年以上も前に亡くなっている。
ここからは、わたしの推測の枠を出ないが、父親はかつての知り合いが亡くなった夢を見たのだろう。そして、過去の記憶が現実の世界と織り交ぜになり、香典を持って行くといった行動を引き起こしたのだと思う。
そしてあの日、知り合いと瓜二つの息子を見て、その知り合いが生きていたと思い込んでしまったのだ。父親からすれば、まるで幽霊でも見たかのような思いだったに違いない。
その後、父親がどうなったかを書いて終わろうと思う。
日を追うごとに、父親の記憶から亡くなっていた知人の記憶が消えていった。
わたしが父親の落ち込み具合を心配して、真実を悟らせるには遺影に向き合わせるべきだと思い「もう一度行って線香を上げてこようか?」と、言ったときである。
返ってきた言葉がこれだった。
「誰か死んだのか?」
おわり
高齢者の睡眠【※厚生労働省e-ヘルスネットからの転用】
年齢とともに睡眠は変化します。健康な高齢者の方でも睡眠が浅くなり、中途覚醒や早朝覚醒が増加します。また睡眠を妨げるこころやからだの病気にかかると、不眠症や睡眠時無呼吸症候群などのさまざまな睡眠障害が出現します。原因に合わせた対処や治療が必要です。
年齢とともに睡眠が変化する
年齢とともに体力が落ち、老眼になり、白髪が増えます。それと同じように睡眠にも変化が生じます。
第一の変化は、高齢者では若い頃にくらべて早寝早起きになることです。これは体内時計の加齢変化によるもので、睡眠だけではなく、血圧・体温・ホルモン分泌など睡眠を支える多くの生体機能リズムが前倒しになります。
したがって高齢者の方の早朝覚醒それ自体は病気ではありません。眠気が出たら床につき、朝方に目が覚めて二度寝ができないようであれば床から出て朝の時間を有意義に使いましょう。
寝床に長くいすぎていませんか?
早寝早起きは結構ですが、眠気がないのに「やることがないから寝床に入る」ことはやめましょう。寝つきは悪くなりますし、中途覚醒が増えてしまいます。
年齢を重ねるごとに実際に眠れる時間は短くなります。若い頃の睡眠時間を望むのは無い物ねだりと言えましょう。一方で寝床にいる時間はどうでしょうか。
高齢者ほど寝床に入っている時間が長いことが分かっています。睡眠時間が短くなるのに寝床にいる時間が長くなる…。結果として眠れぬままに寝床でうつらうつらしている時間が増えて睡眠の満足度も低下してしまいます。
高齢者に多い睡眠障害
高齢者では退職・死別・独居などの心理的なストレスに加えて、不活発でメリハリのない日常生活、こころやからだの病気、その治療薬の副作用などによって、不眠症をはじめとするさまざまな睡眠障害にかかりやすくなります。
狭心症や心筋梗塞による夜間の胸苦しさ、前立腺肥大による頻尿、皮膚掻痒症によるかゆみ、関節リウマチによる痛みなどによる不眠などキリがありません。またそれらの治療薬によっても不眠・日中の眠気・夜間の異常行動などの睡眠障害が生じます。
高齢者ではうつ病・認知症・アルコール依存症なども多く、これらの精神疾患によっても睡眠障害が生じます。早めの専門医への受診が必要です。
さらに若い頃には影響がなかった生活習慣(運動不足・夜勤など)や嗜好品(カフェインの入った飲み物やアルコール類)でも睡眠障害が生じることがあります。不眠や眠気があったら、その原因を突き止めること、原因に応じた対処を行うことから治療は始まります。
高齢者がかかりやすい睡眠障害があります。中でも睡眠時無呼吸症候群・レストレスレッグス症候群・周期性四肢運動障害・レム睡眠行動障害などは専門施設での検査と診断が必要です。
これらの特殊な睡眠障害にはそれぞれの治療法があり、通常の睡眠薬では治りません。これらの睡眠障害が疑われる場合には、日本睡眠学会の睡眠医療認定医へのご相談をお薦めします。
現在日本で使われている睡眠薬は安全性が高いので、過剰な心配はいりません。ただし高齢者では若年者に較べて睡眠薬に対する感受性が高く(少量で効きやすい)、体内から排泄する力も弱くなるので、注意深く使用する必要があります。
最近では体のふらつきやめまいなどの副作用が少ない睡眠薬も開発されています。
認知症の睡眠問題
アルツハイマー病などの認知症の方では、同年代に較べてもさらに睡眠が浅く、さまざまな睡眠問題がみられるようになります。重度の認知症の方ではわずか1時間程度の短時間でさえ連続して眠ることができなくなるといわれています。
認知症の方では夜間の不眠とともに昼寝(午睡)が増え、昼夜逆転の不規則な睡眠・覚醒リズムに陥るようになります。またしっかりと目が覚めきれず「せん妄」といわれるもうろう状態がしばしば出現します。
このような時には不安感から興奮しやすく時に攻撃的になるため、介護の負担が増します。認知症の方の一部では、夕方から就床の時間帯に徘徊・焦燥・興奮・奇声などの異常行動が目立つ日没症候群という現象がみられます。これも睡眠・覚醒リズムの異常が関係していると考えられています。
残念ながら認知症の方の睡眠障害に有効な薬物療法は知られていません。効果が出ても一過性の場合が多く、長期間にわたり使用することは避けなければなりません。
効果が出ないからといって睡眠薬や鎮静薬を使いすぎると、強い眠気や誤嚥、転倒・骨折などのために生活の質が低下し、結果的に介護負担が増加します。
認知症の方の睡眠を保つためには?
- 就寝環境を整える(室温・照度)
- 午前中に日光を浴びる
- 入床・覚醒時刻を規則正しく整える
- 食事時刻を規則正しく整える
- 昼寝を避ける/日中にベッドを使用しない
- 決まった時刻に身体運動する(入床前の4時間以降は避ける)
- 夕刻以降に過剰の水分を摂取しない
- アルコール・カフェイン・ニコチンの摂取を避ける
- 痛みに充分対処する(気づかれていないことも多い)
- 認知症治療薬(コリンエステラーゼ阻害剤)の午後以降の服薬を避ける
あとがき【高齢者の記憶違いは否定しない!】
あとから専門家に相談したところ、父親の症状は「記憶障害」の一種であり、完全に「認知症」の症状だと言われました。また、「睡眠障害」は服用する薬の影響もあるだろうとのことでした。
この一件から、わたしが学んだことは、高齢者の記憶違いを完全否定するのは良くないということです。結果的に父親は知人の家を覚えていたのに、わたしは鼻から(どうせ忘れたんだろ)みたいな対応を取っていました。
知人と息子を間違えたショックもあったでしょうが、わたしの父親への接し方も心を閉ざす一因になったのだと、今では反省をしています。
親子と言えども分からないことだらけです。同じような悩みを抱えている方々、共に頑張りましょうね。
知っておきたい認知症のキホン!【政府広報オンライン】
公表されている介護サービス!【厚生労働省HPより転載】
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