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豊島与志雄『悪魔の宝』あらすじと感想【地道にコツコツと!】

名著から学ぶ(童話)
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はじめに【悪銭身に付かず!】

 悪銭(あくせん)()()かず」という、ことわざがあります。
悪いことや賭け事などで儲けたお金は、どんどん使ってしまって結局貯めることができないという意味で使われますが、わたしも痛いほど心当たりがあります。

 ギャンブルでたまたま勝ったときは気持ちが大きくなって友人に大振る舞い。それまでの損失を全て忘れてしまうのですから自分の馬鹿さ加減には心底呆れてしまいます。

 ギャンブルは勿論のこと、ときには上手い投資や話しに乗って、大損をこいたことも・・・。ともかくとして、幼児期に『悪魔の宝』のような童話を読んでいたならこのような失敗もせずにいたのかなあ?なんて、ふと思うこともあります。

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豊島与志雄『悪魔の宝』あらすじと感想【地道にコツコツと!】

豊島与志雄(とよしまよしお)とは?

 豊島与志雄は明治期から昭和期にかけて活躍した小説家、翻訳家、児童文学者です。(1890-1955)
豊島与志雄は明治23(1890)年11月27日、福岡県朝倉(あさくら)郡福田村(現:朝倉市)の士族の家に生まれます。

 福岡県中学修猷館(しゅうゆうかん)、第一高等学校を経て東京帝国大学文学部仏文科に入学します。東京帝大在学中の大正3(1914)年、芥川龍之介、菊池寛、久米正雄らと第三次『新思潮』を刊行し、その創刊号に処女作となる『湖水と彼等(かれら)』を寄稿し注目されるようになります。

   芥川龍之介

芥川龍之介『羅生門』【「生か死か」二者択一の選択!】

 大正6(1917)年、ヴィクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』を翻訳し、これがベストセラーになります。翻訳には他にも、ロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』等があり、いずれも名訳として知られています。

 以後、いくつかの大学で仏文学を講じながら数多くの小説、童話を発表します。戦後は、日本ペン倶楽部(日本ペンクラブ)の再建に尽力するなどしていましたが、昭和30(1955)年6月18日、心筋梗塞のため東京都文京区千駄木の自宅で死去します(享年:64歳)

 代表的小説集に『生あらば』『野ざらし』『道化役』『(はく)()』、童話集に『夢の卵』『エミリアンの旅』等があり、その他多くの随筆・評論、それに若干の戯曲もあります。

   豊島与志雄

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童話『悪魔の宝』(あくまのたから)について

 『悪魔の宝』は、昭和4(1929)年1月、児童雑誌『赤い鳥』で発表されます。昭和8(1933)年1月、豊島の児童文学集『エミリアンの旅』(春陽堂)に収録されます。

『悪魔の宝』あらすじ(ネタバレ注意!)

 あるところに、センイチという腕のいい猟師がいました。ところがその日、どうしたことか何の獲物(えもの)もとれませんでした。センイチは猟を諦めて家に帰ることにします。その帰り道、薄暗い森の中を通っていると、誰か後ろから着いて来るような気がします。

 振り返って見ると、黒い着物を着て、大きな帽子をかぶっている男が、すぐ後ろを着いて来ていました。その男はセンイチに、「わたしが栗の木の下に穴を掘ってるのを見たろう。」と言います。センイチは、「見ないよ。」と答えました。

 森から出て砂利の道にさしかかっても、その男は着いて来ます。しかも男の足音はまるで牛か鹿が歩いているかのような音でした。センイチは立ち止まり、男に向かって、「お前さんは何を履いてるんだい?」と聞きます。

 男は、「見せてあげよう。」と言い、足を差し出しました。センイチはびっくりします。なんと男の足には、ひづめがついていたのです。しかも良く見ると、男の指には長い爪があり、尻からは長い尾が下がり、帽子を脱ぐと、頭には二本の角が生えていたのでした。

 センイチは鉄砲を向けて、「お前は悪魔だな。撃ち殺すぞ!」と言います。「待ってくれ!」悪魔はそう言い、「今日は一匹も獲物がなくて、酷くしょげてるようだね?」と言いました。そして、「俺の道具をお前に貸してやろうじゃないか?」と、センイチに提案します。

 道具とは、ひづめや長い爪、尻尾や角のことです。悪魔は、「足はどんなところでも駆け回ることができ、爪はどんな木や崖でも自由に登ることができる。この角はどんな猛獣も怖がって近づかないし、尻尾は遠くの獲物を招き寄せることができる。」と、話しました。

 そして、「近日中に都に行ってみたいが、この身体では気付かれる怖れがある。そこで、都に行く間、お前に貸してやろう。お前が一日猟に出て、手ぶらで帰るのを見て、少し気の毒になったからだ。」と、言いました。「借りよう!」センイチは決心して答えます。

 悪魔はセンイチに、「ただ一つ、森の中におれが掘った穴を探したらいけない。そんなことをしたら約束は取り消しだ!」と言いました。センイチがそれを承知すると、悪魔は、尾でセンイチの身体をなでました。すると悪魔とセンイチの姿は入れ替わっていたのでした。

 悪魔の姿を借りたセンイチは、急いで(うち)へ帰って来ます。お(かみ)さんのセイは、センイチの姿を見るなり、「お前は悪魔だ。出て行け!」と言いました。センイチは笑いながら、森の中での出来事、悪魔の姿を借りたことを、詳しく話して聞かせたのでした。

 翌日になると、センイチは朝早くから鉄砲をかついで猟に出かけました。悪魔の言ったことは本当だったのです。ひづめの足は、どんな所でも駆け回れましたし、長い爪はどんな木や崖でも自由に登ることができました。

 遠くに獲物がいても、尾で招き寄せて、鉄砲で狙い撃ちにすることができるし、頭の二本の角を見せると、どんな猛獣も恐れて逃げるので、少しも危ないことがありませんでした。そして猟をすると面白いほど獲物がとれます。ときには大きな鹿や猪などもとれました。

 ところが一つだけ不便なことがありました。それはセンイチが、悪魔の姿をしていることで、人目を避けなければならないことでした。とった獲物は藪の中に隠して置いて、夜になってから取りに行き、翌日セイが車に積んで町へ売りに行くのです。

 そんな日が幾十日も続きました。始めのうちセンイチは、獲物のとれる面白さに夢中になって猟をしました。セイもまたお金のたまる面白さに夢中になって獲物を売りに行きました。けれどもそのうち二人は、溜息をつくようになったのです。

 その上、セイが毎日多くの獲物を売りに来ることを変だと、町の人が噂をするようになります。センイチが悪魔のような姿をして山の中を駆け回っていたと、ある猟師が言いました。「早く悪魔が帰って来ないかなあ。」センイチは何度も繰り返しました。

 四五十日も経つと、二人はもう待ちきれなくなります。そしてセンイチは、(悪魔が森の中に掘った穴を探し出せば約束が取り消される)ということを思いつきました。お金はたまっているし、穴の中には悪魔が宝を埋めているはずです。セイもこの思いつきに賛成しました。

 翌日からセンイチは猟をやめて、森の中に悪魔の穴を探しに出かけます。けれども栗の木の下というだけでは何も分かりません。センイチは一日中森の中をうろつき回っても悪魔の穴を見つけることが出来ませんでした。

 翌日もセンイチは出かけます。けれども見つかりません。三日目、四日目、五日目も同様でした。六日目、「もうやめた方がいいよ。」と、セイは言います。「もう一日だけ探してみよう。」と、センイチは答えました。

 七日目、センイチは今日が最後という決心で出かけます。すると森の奥深く、少し開けている場所で、大きな栗の木を見つけました。その木の下枝にはコウモリが一匹とまっています。センイチはコウモリに宝の隠し場所を訊ねてみました。

 けれどもコウモリは返事をしてくれません。センイチは怒って、石を拾い上げて投げようとしましたが、コウモリはすでに消えていました。このときセンイチは、(こんな変なコウモリがいるところを見ると、悪魔が宝を隠したのはこの栗の木の根元に違いない)と考えます。

 栗の木の根元を調べると、土が盛り上がったところがありました。一生懸命その場所を掘ると小さな木の箱が出て来ました。センイチはその箱を打ち破ります。ところが箱の中はガラクタばかりでした。そしてセンイチは元通りの人間になっていたのです。

 家に帰ると、センイチとセイは、手をとりあって喜びました。センイチが悪魔の宝のことを話すと、セイは、「だけど、たくさんお金儲けが出来た。」と言いました。二人は押し入れからお金の入った箱を取り出して開けて見ます。

 するとなんと、たくさんお金が入っているはずが、悪魔の宝と同じで、ガラクタばかりだったのです。二人がぽかんとして顔を見合わせていると、「今晩は。」と声がしました。振り向くとそこに悪魔が立っていて笑っています。

 悪魔は真面目な顔をして言いました。「約束は取消しだ。金がガラクタになったからって、お前の方から約束を破ったんだから恨みっこ無しさ。でも面白い夢だったろう。仲良く別れようよ。さよならだ。」そのまま悪魔の姿は消えてしまいました。

 「悪魔と約束なんかするものじゃない。明日から元通りに働くんだ。そこで久しぶりに村のほうに行ってみよう。」センイチがそう言うと、セイも「わたしも一緒に行こう。変な噂が立っているんだから。」と言いました。

 二人は、晴れ晴れとした気持ちになって、村の方に元気よく出かけて行ったのでした。

青空文庫 『悪魔の宝』 豊島与志雄
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あとがき【『悪魔の宝』の感想を交えて】

 やることなすこと上手くいかないことが、誰にでもあると思います。そんなとき人は、「他力本願」になるものです。センイチもそんな心境に陥っていたのでしょう。

 不思議なもので、そのようなタイミングで上手い話しというものは転がりこんでくるものです。悪魔もまた、弱気になっていたセンイチの心に上手く付け込みます。いや、人間の持つ欲深さに付け込んだと言えるかもしれません。

 わたし自身も投資話に乗って大損をした経験があると話しましたが、それもまた欲深さゆえの失敗でした。けれども、センイチとセイの夫婦はこの苦い経験を経て、本来の幸福を再確認します。「失敗は成功の母」と言いますが、失敗することで見える景色もあるのです。

 ともかくとして『悪魔の宝』は、「地道にコツコツ働くのが一番!」と、わたしに諭してくれているような気がします。

※他力本願(たりきほんがん) 仏教で、阿弥陀(あみだ)如来の立てた本来の願いにすがって衆生(しゅじょう)が救済され、極楽往生を得ること。転じて、自分で努力をせずに、ひたすら他人の協力や援助をあてにすること。

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