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中島敦『寂しい島』を再読し、改めて感じた想い

一読三嘆、名著から学ぶ
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はじめに【中島敦の作品に再挑戦!】

 中学高校と一応読もうとはしたものの、その文体の難しさに挫折をし、社会人になってから再び手に取り、とりあえず完読はしたけれど、どこか消化しきれなかったという思いがずっと、わたしの心の中で燻り続けていました。「とにかく “ 難解 ”」 それが中島敦という作家への印象です。

 そもそもわたしの読解力の(つたな)さが問題なのですが・・・。
人生の折り返し地点を曲がってから、改めて中島敦の作品に向き合っています。そして、感じたことを意味もなくノートに書き留めていたのですが、それをブログに載せたいと思います。

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中島敦『寂しい島』を再読し、改めて感じた想い


環礁かんしょう―ミクロネシヤ巡島記抄じゅんとうきしょう―『寂しい島』

中島敦とは?

 昭和初期に活躍した小説家です。中島(あつし)(1909-1942)は東京に生まれ、東京帝国大学国文科を卒業後、横浜高等女学校で教壇に立つかたわら執筆活動を始めます。

 持病の喘息と闘いながらも執筆を続け、1934年、『虎狩』が雑誌の新人特集号の佳作に入ります。1941年、南洋庁国語教科書編集書記としてパラオに赴任中、中島代表作のひとつ『山月記』を収めた[古譚(こたん)]を刊行しました。

 その後、創作に専念しようとしましたが、喘息が悪化し、急逝してしまいます。
『弟子』()(りょう)』等の代表作の多くは死後に発表され、その格調高い芸術性も死後に脚光を浴びることになります。享年33歳。


  中島敦

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環礁―ミクロネシヤ巡島記抄―とは?

 環礁―ミクロネシヤ巡島記抄―は、中島敦の短篇作品群のことで、『寂しい島』『夾竹桃(きょうちくとう)の家の女』『ナポレオン』『真昼』『マリヤン』『風物抄(ふうぶつしょう)』の6篇が収められています。

 中島敦は南洋庁の編修書記に任じられ、パラオ・コロール町(コロール島)で、現地の国語教科書作成業務に携わっています。(当時のパラオは日本領)このとき、二週間かけてパラオ本島を一周し、見聞した様々な風物や自然を随想したと言われています。

物語の時代背景

 昭和16年(1941年)12月、「大東亜戦争」が勃発しますが、中島敦はときを同じくしてパラオに赴任しています。

 中島が去った後の昭和19年(1944年)、パラオは激戦地となり、多くの戦死者を出します。「ペリリューの戦い」「マリアナ・パラオ諸島の戦い」等。

環礁―ミクロネシヤ巡島記抄―『寂しい島』あらすじ(ネタバレ注意!)

 「寂しい島だ。」この印象的な冒頭分で物語(随筆)は始まります。
パラオ諸島の “ 寂しい島 ” とは一体どの島を指しているのか明かされていませんが、食べるものは豊富で美しい島であると中島は言っています。けれども、「寂しい島だ。」と。

 この島の人口は170~180人くらいですが、中島は他にも小さい島を幾つも見て来たと言います。土が無いためタロ芋(島民にとっての主食)の育たない島、虫害のためにヤシを枯らしてしまった島など。しかし「ここほど寂しい島はない。」と。


    タロイモ

 そして、その理由を明らかにします。―――「子供がいないからだ」
この島の子供は5歳の女の子たった一人だけです。子供の生まれにくい島のようで、女の子はまるで生き仏かのように島のものに崇められています。

 中島は子供の生まれない理由を、(性病の蔓延・避妊の事実・女性の身体への施術をする奇習・天災地変)等、あれこれと推測しますが結局分かりません。そして非科学的だと笑われたとしても「恐らく、神がこの島の人間を滅ぼそうと決意したからでもあろう。」と、自分の中で結論付けています。

 そんな島のたった一人の子供に興味を持った中島は、(さぞ美しく怜悧(れいり)な子であろう)と、期待を膨らませ、女の子に会いにいきます。ところが中島の期待は大きく裏切られ、その姿は平凡な島民の子供そのものでした。



 その日の夕方、中島は渚を歩いているとき、無数の小さな蟹の姿を見つけます。
そして「この島の人間どもが死絶えた後は、この影のような砂の亡霊のような小蟹どもが、この島を領するのであろうか。」と、うそ寒い気持になります。

 島から離れ、汽船(きせん)に戻った中島はこんなことを想像します。

以下原文通り

 浜辺で島民どもの死絶えた後のこの島を思い画いたように、今、私は、人類の絶えてしまったあとの・誰も見る者も無い・暗い天体の整然たる運転を―ピタゴラスのいう・巨大な音響を発しつつ廻転する無数の球体どもの様子を想像して見た。

 何か、荒々しい悲しみに似たものが、ふっと、心の底から湧上って来るようであった。

青空文庫 『寂しい島』 中島敦
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あとがき【『寂しい島』の感想も交えて】

 中島の生きたこの時代は、まさに大激動期とも呼べる時代でした。
1939年、ドイツ軍によるポーランド侵攻を発端とした、いわゆる「第二次世界大戰」の幕が切って落とされ、さまざまな国が否応なしに巻き込まれていきます。皆さんもご存知のように日本という国も例外ではありませんでした。

 そんな時代に、南国の島で中島が抱いていた気持ちとはなにか?わたしに到底分かる筈などありませんが、世界中の誰もが不安だったことは確かでしょう。人間同士が殺し合いをしなくても、こうして人の絶えてしまう島もあるのです。それなのに、人は殺し合いを止めない。

 『寂しい島』は、今を生きる愚かな人々への警告のような気がしてなりません。
なぜ争いごとはこの世界から無くならないのか。このようなことを考えるとき、わたしも中島敦のように、何か、荒々しい悲しみに似たものが、ふっと、心の底から湧上って来ます。

 自分自身の無力さ故に。 

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