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織田作之助『婚期はずれ』あらすじ【見栄がチャンスを奪う!】

一読三嘆、名著から学ぶ
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はじめに【若者の恋愛離れ!】

 内閣府が公表した「令和4年版男女共同参画白書」によると、「20代独身男性の約4割がデートをしたことがない」との調査結果が発表され、「若者の恋愛離れ」を示すものだとして、大きな話題となりました。

 同調査では、 “ 結婚願望 ” について、20代女性の86.0%、男性の80.7%が、「結婚の意思あり」と回答し、30代では男女ともに約75%が「結婚の意思あり」と回答をしています。

 ところが、20歳以上の未婚者の割合(未婚率)は、男性が31.4%、女性が23.2%と、特に平成になってからは、若い年齢層を中心に大幅に上昇しています。つまり結婚願望はあるものの諸事情により結婚に踏み切れないでいるのが現状です。

 とは言え、恋愛や結婚に関しては、個人の意思が尊重されるようになり、ハードルは低くなっているように感じます。かつては、「結婚は家同士がするもの」といった縛りがあったのですから・・・。

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織田作之助『婚期はずれ』あらすじ【見栄がチャンスを奪う!】

織田作之助(おださくのすけ)とは?

 織田作之助は日本の小説家です。(1913-1947)
作之助は大正2(1913)年10月26日、大阪市中央区生玉前町(現:天王寺区(うえ)(しお)4丁目)の仕出屋「魚春」の織田鶴吉、たかゑの長男として生まれます。

 昭和6(1931)年、旧制大阪府立高津中学校(現:大阪市立生魂小学校)を卒業した作之助は旧制第三高等学校(新制京都大学教養部の前身)文科甲類に入学します。けれども昭和9(1934)年、卒業試験中に喀血し、療養生活に入ります。結局三高を退学します。

 昭和13(1938)年、処女小説『ひとりすまう』を発表し、『雨』で武田(りん)太郎(たろう)に認められます。昭和14(1939)年、宮田一枝と結婚後、『俗臭』が芥川賞候補となります。その後発表した『夫婦善哉』で作家としての地位を確立します。

 昭和16(1941)年、長編小説『青春の逆説』が発禁処分となりますが、『世相』『動物集』『木の都』と発表します。戦後、太宰治、坂口安吾、石川淳らと共に新戯作派(無頼派)として活躍し、「オダサク」の愛称で親しまれます。

    太宰治

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   坂口安吾

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 その後も『六白金星』『アド・バルーン』『世相』『競馬』等の問題作や、長編小説『夜光虫』『土曜夫人』を発表します。しかし昭和21(1946)年12月、結核により大量の喀血を起こし、翌22(1947)年1月10日に死去してします。(没年齢33歳)

短編小説『婚期はずれ』について

 『婚期はずれ』は、昭和15(1940)年、文芸雑誌『会館芸術』(大阪朝日新聞社会事業団:出版)11月号に掲載されます。その後、『織田作之助全集1』(講談社)に収録されます。

『婚期はずれ』あらすじ(ネタバレ注意!)

 大正の頃の大坂、葬礼(そうれい)(みち)供養(くよう)で、友恵堂の最中(もなか)が景気良く振る舞われました。亡くなったのは朝日理髪店の当主で、長男の永助(三十二歳)が家業を継ぐことになります。ところがこの永助まだ独身で、高慢かつ客あしらいも悪く、母親のおたかは心細く思っていました。

※道供養(みちくよう) 葬儀のあと、野辺送り(死者を火葬場まで送っていくこと)の道中で、道行く人に品物を渡す慣習。

 景気良く最中が振る舞われたのは、そんな理由もありましたが、もう一つ、娘の(よし)()のこともあったのです。義枝は二十六歳ですが結婚に縁遠く、肩身の狭い思いをしていました。義枝の下には、二十三歳の定枝、十七歳の久枝、十三歳の敬二郎、十歳の持子がいます。

 三年が経ち、義枝は二十九歳になっていました。その間縁談が無かったわけではなく、幾度もありました。けれども決まって母親のおたかが、「格式が違うことあれしまへんか。」と、つまらぬ見栄を張って、ことごとく潰していたのです。さすがのおたかも責任を感じてきます。

 それから長男の永助、次女の定枝、三女の久枝にも縁談が来ました。けれども(長女の義枝の縁組みもせぬうちに)とか色んな理由をつけた挙句に、「格式いうもんがおまっさかいな。」と、いつもの決まり文句を言って、断るのでした。

 そんなおたかも内心は焦っていたのです。義枝は二十九歳、定枝は二十六歳、久枝は二十歳、持子は十三歳になっていました。そんなとき、近所に花井という株屋の外交員をしている男が引っ越して来ます。その日からおたかは、なにかと花井のご機嫌を取り、面倒を見るようになりました。

 近所の人々は、「誰を(もろ)てもらうつもりやろ。」と噂をします。ところがある夜、花井は夜逃げをしてしまいます。主人の金で株をして穴をあけたためだと、後で分かりました。おたかはその日一日中、頭痛がするといって寝こんでしまいます。

 八年が経ち、五十四歳になったおたかは、めっきりと肥えていました。永助は四十歳、義枝は三十四歳、定枝は三十一歳、久枝は二十五歳、敬二郎は二十一歳、持子は十八歳になっています。次男の敬二郎は商船会社に勤めていたものの、肺を患っていました。

 そんな敬二郎ですが、ある日、二階の窓から(たん)を吐いて、ちょうど路地を通っていた()()屋の娘にかけてしまいます。それで、おたかと銭湯屋の仲が悪くなってしまいました。実は銭湯屋には五人の娘がいて、四人の娘が次々と片付いていたのです。

 そのときおたかは、悔しさのあまり、「番台で坐ったはったりして、男こしらえるのがそら上手だっせ。」と、言いふらしたのでした。痰をかけられたのは末の娘です。その娘は間もなく嫁入りするのですが、その日もおたかは頭痛がして起きられなくなったのでした。

 銭湯屋の向かいにミヤケ薬局があり、そこの主人の妻が三人の子供を残して亡くなります。するとおたかは駆けつけて、色々と気を配るようになりました。けれども半年後、後妻が来た途端、おたかは三日間寝込み、その後は薬局屋の主人と口も聞かなくなりました。

 その年の夏、末娘の持子が妊娠していると分かります。おたかは相手がどこの誰にしろ、嫁にくれてやろうと思いました。けれども相手は近頃、胸を患って亡くなったとのことでした。おたかはぺたりと尻餅をつきます。

 秋になると、朝日理髪店の一家は郊外へと移りました。年が明けて、持子が男の子を産むと、家の中はめっきりと明るくなります。赤ん坊の誕生日に、おたかは娘たちを引き連れて写真屋に行きました。すると、銭湯屋の娘たち五人がそれぞれ子供を連れて、写真を撮りに来ているのです。

 銭湯屋の姉娘が、「おばちゃんちょっとも痩せてはれしまへんな。」と言うと、おたかは、「へえ、郊外で空気がよろしおまっさかい、おかげで肥えとおりまんねん。」と答え、「これ見たっとくなはれ。」と赤ん坊を差し出したのでした。

青空文庫 『婚期はずれ』 織田作之助
https://www.aozora.gr.jp/cards/000040/files/53487_44505.html

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あとがき【『婚期はずれ』の感想を交えて】

 『婚期はずれ』は、おたかの変な「見栄」のせいで、子供たちが次々と婚期を逃していくという、言うなれば至って単純な物語です。ちなみに「見栄」とは見た目を過大に強調させることで、自分が持つ自存心を意味する「プライド」とは違います。

 けれども、おたかが嫌な母親かと思いきや、どこか憎めないところがあります。それは母親としての子供たちへの深い愛情が垣間見えるからです。「見栄」で縁談を断っているものの、本音では子供を手放したくないからでしょう。

 その「見栄」で、一家は郊外に移ることになるのですが、それでも一家は幸せそうです。大事なことはいかに「幸福」に生きるかです。例え結婚していなくても、自分の物差しで「幸福な人生」なら、他人がとやかく言うことではありません。

 なんにせよ、つまらぬ「見栄」や「プライド」は厄介なものです。ひいては他人にも「絶対条件」を求めることに繋がるのですから。

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