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芥川龍之介『蜘蛛の糸』あらすじと解説【お釈迦様の教えとは?】

一読三嘆、名著から学ぶ
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はじめに【蓮の池散策】

 とある休日、創健が平安時代までも(さかのぼ)るといった由緒正しい神社に、ふと思いつき、散策に出かけることにしました。境内には大きな池がふたつ、仲良く寄り添うように並んでいます。一見、小さな湖かと見間違うような広さの池です。

 ふたつの池からは水面(みなも)が消えていました。
それは、池を覆いつくすように、びっしりと蓮の葉が群れて生息していたからです。

 鮮やかな新緑の葉のところどころから、蓮の花が恥ずかしそうに顔を覗かせています。花びらが淡いピンク色に染まっているから、そう見えるのでしょう。

 小一時間くらいでしょうか。その景色を眺めているうちに、芥川龍之介の短編小説『 蜘蛛の糸 』 について、考えを巡らしている自分がいました。

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芥川龍之介『蜘蛛の糸』あらすじと解説【お釈迦様の教えとは?】

芥川龍之介とは?

 大正・昭和初期にかけて、多くの作品を残した小説家です。芥川龍之介(1892~1927)
芥川龍之介は、明治25(1892)年3月1日、東京市京橋区(現・東京都中央区)で牧場と牛乳業を営む新原敏三の長男として生まれます。

 しかし生後間もなく、母・ふくの精神の病のために、母の実家芥川家で育てられます。(後に養子となる)学業成績は優秀で、第一高等学校文科乙類を経て、東京帝国大学英文科に進みます。

 東京帝大英文科在学中から創作を始め、短編小説『鼻』が夏目漱石から絶賛されます。今昔物語などから材を取った王朝もの『羅生門』『芋粥』『藪の中』、中国の説話によった童話『杜子春』などを次々と発表し、大正文壇の寵児となっていきます。


  夏目漱石

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 本格的な作家活動に入るのは、大正7(1918)年に大阪毎日新聞の社員になってからで、この頃に塚本文子と結婚し新居を構えます。その後、大正10(1921)年に仕事で中国の北京を訪れた頃から病気がちになっていきます。

 また、神経も病み、睡眠薬を服用するようになっていきます。昭和2(1927)年7月24日未明、遺書といくつかの作品を残し、芥川龍之介は大量の睡眠薬を飲んで自殺をしてしまいます。(享年・35歳)


  芥川龍之介

小説『蜘蛛の糸』とは?

蜘蛛(くも)の糸』は、芥川龍之介の手がけた初めての児童文学作品です。
鈴木(すずき)三重(みえ)(きち)により創刊された児童向け文芸雑誌『赤い鳥』7月・創刊号に発表されました。

 この話の材源は、ドイツ生まれのアメリカ作家で宗教研究者のポール・ケーラスが1894年に書いた『カルマ』の鈴木大拙(だいせつ)による日本語訳『因果の小車』の中の一編であることが定説となっています

 ちなみに『赤い鳥』は、主宰者・鈴木三重吉が、子供の純性を育むための話・歌を創作し世に広める一大スローガンを宣言し、創刊された雑誌です。このモットーに多くの第一線で活躍していた作家が賛同しました。その一人が芥川龍之介です。

『 蜘蛛の糸 』あらすじ(ネタバレ注意)

 ある朝のことです。極楽の蓮池のほとりを散歩していたお釈迦(しゃか)さまが、ふと地獄の様子を見下ろすと、そこに犍陀(かんだ)()という男が、大勢の罪人にまじってうごめいているのが見えました。犍陀多は生前に、殺人や放火の罪を犯した大泥棒でした。

 そのとき、お釈迦さまはこの大泥棒がたった一つだけ良い事をしたのを思い出します。それは林の中を歩いていた時、路ばたを這っていく一匹の蜘蛛を見つけ、一度は踏み殺そうとしたものの、思いとどまり、助けてあげたことでした。

 お釈迦さまは、蓮の葉の上に美しい銀色の糸をかけている極楽の蜘蛛を見つけると、 その糸を地獄の犍陀多の上に垂らしてあげます。

 犍陀多が何気なく空を見上げると、なんと高い天上から、銀色に輝く蜘蛛の糸が自分の頭上に下りてくるではないですか。犍陀多はその糸にすがって地獄の血の池からぬけ出そうと考えます。

 犍陀多は必死で蜘蛛の糸をよじ登ります。しぼらく上ってから一休みしようと下を見下ろしたときでした。なんと地獄から大勢の罪人たちが、自分のあとについて上ってきているではありませんか。

 何しろ細い蜘蛛の糸です。(これだけの人の重みに堪えられるはずがない。)そう考えた犍陀多は、思わず「こら、罪人ども、この蜘蛛の糸は己のものだ、 下りろ、下りろ」と、叫んでしまいます。

 そのとたんに糸は切れて、犍陀多は再び地獄に落ちてしまいました。
一部始終をじっと見ていたお釈迦さまは悲しそうな顔をして、極楽の蓮池のほとりを歩いていきます。

青空文庫 『蜘蛛の糸』 芥川龍之介
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『終活』するなら「仏教」を学ぼう!【仏教の宗派と歴史】

『蜘蛛の糸』【解説と個人的な解釈】

お釈迦様(おしゃかさま)とは?

 仏教という宗教は、インドのお釈迦様(ブッダ)が創始したものです。お釈迦様は紀元前463年頃に、北インドのシャーキャ(釈迦)族の王子として生まれました。(この頃の名前はゴータマ・シッダールタ)

 驚くことに、イエス・キリストより500年も古い時代です。そのゴータマ・シッダールタが、あるとき妻子を捨てて出家をします。その後、色々な修行の末に、35歳の頃、ブッダガヤーの菩提樹の下で悟り(覚りとも書く)を開いてブッダとなります。

 以後、80歳で没するまで,ガンジス川流域の中インド各地を周遊して人々を教化しました。ちなみにブッダとは、「悟りを開いた人(覚者(かくしゃ))」という意味の言葉です。これが中国で漢字に直されて「仏陀」となり、それを略して「仏」といいます。


サールナート考古博物館のブッダ像

『蜘蛛の糸』疑問点

『蜘蛛の糸』の物語を読み進めていくと、どうしてもところどころで、疑問を抱いてしまいます。それは多分、他の読者も同じでしょう。

疑問①
 先ずひとつは、多くの罪人がいるなかで、お釈迦さまは、どうして犍陀多を選んだのか?という点です。物語では「たまたまお釈迦さまの眼に止まった」かのようなニュアンスで描かれています。

疑問②
 次に、犍陀多は「人を殺したり家に火をつけたり、いろいろ悪事を働いた大泥棒」であり、“ 蜘蛛を一匹救っただけ ” で、なぜお釈迦さまは救いの糸を垂らしたのか?といった点です。

疑問③
 そして最後に、あのような結果になることは目に見えているのに、そもそもお釈迦さまは犍陀多を救う気があったのか?という点です。

『蜘蛛の糸』個人的な解釈

 疑問①に関しては、そこにお釈迦さまの気まぐれもあり、多分に「運」の要素もあるような気がします。それは、わたしたちの人生でも同じです。「運」によって人の人生は左右されたりします。

 児童文学作品ということを踏まえると、この世界の不公平さ・理不尽さを物語を通して芥川は教えているような気がします。

 疑問②に関しては、犍陀多の罪を仏教でいうところの「宿業(しゅくぎょう)」として捉えているように感じます。人は生まれながらにして多くの宿業を抱えています。

 例えば、生まれ育った環境がその後の人生を決めます。そこには、生まれ来る人の意思など存在しません。勿論のちの努力により這い上がれる人もいますが、それはわずかと言っても良いでしょう。

 物語では、犍陀多がなぜ大泥棒になったかという部分には触れていません。そこには理由がある筈です。宿業の部分で何かしらの慈悲があったと考えたいです。

※ 宿業 仏語。現世で報いとしてこうむる、前世に行った善悪の行為。すくごう。

 疑問③に関してですが、お釈迦さまは犍陀多を救済したいと思っていました。けれども、その前に一つの試練を犍陀多に与えたのだと考えるのが妥当だと思います。

 大勢の罪人たちが犍陀多の後ろから上ってくるのも計算尽くだったでしょう。そのうえで犍陀多が(みんなも一緒に)という気持ちが芽生えるのを期待していたものと考えます。

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あとがき【『 蜘蛛の糸 』の感想を交えて】

 さて、この物語を「因果応報」の言葉で片付けてしまうには、なにか忍びないような気がします。犍陀多の行動、つまり(自分ひとりだけでも助かりたい)といって自己中心的な思考は人間誰しもが持っているからです。

 そう考えると、お釈迦さまにどこか非情さを感じてしまいます。
そのことを、以前に史跡巡りで訪れた、ある禅宗寺院の住職も語っていました。そして、法話で『 蜘蛛の糸 』のその後を勝手に創作し、話してくれたのです。

 小説の結末は、あらすじにも書きましたが、主人公の犍陀多が、自分ひとりだけ地獄から抜け出そうとしていたのを見たお釈迦さまが、もとの地獄へと落としてしまうというものです。けれども、住職の法話の内容はこんな感じでした。

 「お釈迦さまは決して救いの手を一度きりで終わらせたりはしません。仏教の教えにおいて “ 慈悲 ” とは、最も尊い教えのひとつです。犍陀多にいずれ憐憫(れんびん)の心が備わるとき、お釈迦さまはきっと再び、蜘蛛の糸を頭上に垂らすことでしょう。」

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