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宮沢賢治『よだかの星』あらすじと解説【いじめの残酷さ!!】

名著から学ぶ(童話)
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はじめに【『問題行動・不登校調査』について】

 文部科学省の『問題行動・不登校調査』によると、2019年度に全国の小中高校などで認知されたいじめが61万2496件と、過去最多を更新したと出ていました。

 ちなみに、いじめ件数は6年連続で増え続けていて、このうち命の危険や不登校につながった疑いのある「重大事態」は、前年度から121件増の723件となっています。

 いじめの標的にされるのは、「大人しい子」「優しい子」「内向的な子」が多いとされています。または、生い立ちや、家庭環境など、いじめられる方からすれば、不可抗力とも言える要因からいじめに発展した例も少なくありません。

 なぜ、この世から “ いじめ ” は無くならないのでしょう。

 実際に、いじめを受ける側の立場になったら、その苦しみも理解できるようになるのでしょうが、誰でも自分は可愛いものです。自ら死地に飛び込むなんてできません。それならせめて、宮沢賢治の童話『よだかの星』を、ひとりでも多くの人に読んでもらいたいものですね。

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宮沢賢治『よだかの星』あらすじと解説【いじめの残酷さ!!】

宮沢賢治とは?

 宮沢賢治(作家・詩人1896~1933)は、明治29年に岩手県の花巻市に富商の長男として生まれます。盛岡高等農林学校(現・岩手大学農学部)を卒業後は研究生として残り、稗貫郡(ひえぬきぐん)(現・花巻市)の土性調査にあたりました。

 大正10(1921)年からの5年間は、花巻農学校の教師を務めながら『注文の多い料理店』などの童話作品を刊行していきます。けれども全く売れず、父親から300円を借りて200部買い取ったという逸話が残されています。

 大正15(1926)年、花巻農学校を依願退職し、百姓の道を志しますが、賢治の農業は「金持ちの道楽」と、陰口を叩かれたりするなど、その道は険しいものでした。同時期、『羅須地人(らすちじん)協会』を設立し、農業の技術指導や、レコードコンサートの開催など、農民の生活向上を目指して邁進します。



 しかし、そんな賢治の理想も結局は叶わぬまま、肺結核が悪化し、病臥(びょうが)生活を送るようになります。最後の5年は病床で、作品の創作や改稿を行っていましたが、昭和8(1933)年9月に、急性肺炎により37歳の若さで亡くなりました。

 生前刊行された作品は、詩集『春と修羅』と童話集『注文の多い料理店』(1924)のみです。『銀河鉄道の夜』『風の又三郎』など、宮沢賢治の代表作といわれる作品は、死後に刊行され、その多くは現代のわたしたちにも影響を与えてくれています。

 また、作品中に多く登場する架空の理想郷に、郷里の岩手県をモチーフとして「イーハトーブ」と名付けたことでも知られています。

 宮沢賢治の人生を詳しく知りたい方宮沢賢治『略年譜』【心象中の理想郷を追い求めたその生涯!】、また、宮沢賢治に関係する人々のことを知りたい方は、宮沢賢治『雨ニモマケズ』現代語訳【賢治に影響を与えた人々!】 を、ご覧になって下さい。


花巻農学校教諭時代の宮沢賢治

羅須地人協会(らすちじんきょうかい)とは?

 大正15年(1926)に、宮沢賢治が現在の岩手県花巻市に設立した私塾のことです。
若い農民たちに、植物や土壌といった農業と関連する科学的知識を教え、そのほか、自らが唱える「農民芸術」の講義も行いました。

 しかしその活動も、保守的な農民の理解は得られず、翌年には休止してしまいます。この私塾がこの名称で活動したのは1926年8月から翌年3月までの約7ヶ月でしたが、その後も賢治は農業指導の活動を続けます。特に農家に出向いての施肥指導はよく知られています。


  羅須地人協会の建物

イーハトーブとは?

 イーハトーブとは宮沢賢治による造語で、賢治の心象世界中にある理想郷を指す言葉です。この造語は賢治の作品中に繰り返し登場します。

 賢治が生前に出版した唯一の童話集である『イーハトヴ童話 注文の多い料理店』の宣伝用広告ちらしの文章は、「イーハトヴ」について以下のような説明がなされています。

 イーハトヴとは一つの地名である。強て、その地点を求むるならば、大小クラウスたちの耕していた、野原や、少女アリスが辿った鏡の国と同じ世界の中、テパーンタール砂漠の遥かな北東、イヴン王国の遠い東と考えられる。実にこれは、著者の心象中に、この様な状景をもって実在したドリームランドとしての日本岩手県である。


『イーハトーブ童話 注文の多い料理店』新刊案内のチラシ

『よだかの星』とは?

 『よだかの星』は、宮沢賢治の童話で、1921年頃に執筆されたと考えられ、賢治の没年の翌昭和9(1934)年に発表されています。

『よだかの星』あらすじ(ネタバレ注意!)

 よだか(夜鷹)は、みにくい鳥でした。顔はまだら模様で、くちばしは、耳までさけています。そのため他の鳥たちからも、「ほんとうに、鳥の仲間のつらよごしだよ」。と、馬鹿にされていました。

 名前はよだかですが、鷹の兄弟でも親戚でもありません。美しいかわせみや、鳥の中の宝石のような蜂すずめの兄さんです。夜だかは羽虫をとって食べます。するどい爪もするどいくちばしもありませんから、どんなに弱い鳥でも、よだかのことは怖がりません。

 たかという名がついた理由は、よだかは羽が強く、空を飛ぶときは鷹のように見えるのと、鳴き声が鷹に似ているからでした。でも鷹はそれを嫌がり、「鷹の名を使うな」。と、責めます。さらには「あさっての朝までに名前を変えなければ、つかみ殺すぞ」。と、脅すのでした。

 よだかは考えます。(どうして僕はみんなに嫌われるのだろうか・・・)と。よだかは、巣から飛び出して、音もなく空を飛び回りました。そして大きく口をひらいて、矢のように空をよこぎっていると、一匹のカブトムシが、よだかの喉元に入ってきて、酷くもがきます。

 よだかはそれを直ぐに飲み込みましたが、その時、急に胸がどきっとして、大声をあげて泣き出しました。(ああ、カブトムシや、たくさんの羽虫が、毎晩僕に殺される。そしてその僕がこんどは鷹に殺される。僕はもう虫をたべないでえて死のう。いや、その前に、僕は遠くの遠くの空の向うに行ってしまおう。)

 失意のなか、よだかは、兄弟の川せみやはちすずめに別れを告げ、空へと旅立ちます。
よだかはおひさまに、「どうぞ私をあなたの所へ連れてって下さい。灼け死んでもかまいません。」と願います。けれども、「お前は夜の鳥だから星に頼んでごらん」と言われてしまいます。



 そこで今度は、オリオン座やおおいぬ座の星に「どうか私をあなたの所へ連れてってください」と頼みますが、相手にされません。よだかは。がっかりしますが、それでも諦めずに、おおくま座やわし座の星にも頼むのですが、それも断られてしまいます。

 よだかは、すっかり力を落してしまって、地に落ちて行きました。地面に足がつくというとき、最後の力を振り絞って、もう一度空を目指します。どこまでも、どこまでも高く。凍えるような寒さや薄い空気と戦いながら。けれども、やがて力が尽きてしまいます。

―以下原文通り―

 それからしばらくたってよだかははっきりまなこをひらきました。そして自分のからだがいま(りん)の火のような青い美しい光になって、しずかに燃えているのを見ました。

 すぐとなりは、カシオピア座でした。天の川の青じろいひかりが、すぐうしろになっていました。そしてよだかの星は燃えつづけました。

 今でもまだ燃えています。

青空文庫 『よだかの星』 宮沢賢治
https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/473_42318.html

『よだかの星』【ひとこと解説】

 よだかが虐められた原因は、容貌の醜さと名前(夜鷹)にあります。けれどもそのどちらもよだか自身の責任ではありません。生まれ持ったものです。鷹に改名を迫られ、「殺す」と脅されたよだかは追い込まれていきます。

 そして、虫を捕食することに違和感を覚えたよだかは、(虫を食べずに餓えて死のう)と考えます。よだかは「捕食=殺生」と捉えたようですが、よだかの場合はあくまで生きるためです。鷹の傲慢さからくる殺生とは違います。

 結局、よだかは餓死を選ばず、(遠くの空の向うに行ってしまう)ことを選択します。どちらの選択にしろ、よだかに待ち受けるのは「死」です。物語の結末、よだかは昇天し、星になって燃え続けることで永遠の命を得ます。虐めなど存在しない世界で、よだかは生き続けるのです。

ヨタカ(夜鷹)ってどんな鳥?

      ヨタカ

 日本、そして東南アジアからインド、中国からロシア南東部までと広い地域で生息している鳥類です。

 夜行性で、昼間は樹の上に止まって休んでいます。鳴き声は大きく単調な「キョキョキョキョ、キョキョキョキョ」ですが、宮沢賢治は『よだかの星』で「キシキシキシキシキシッ」と表現しています。

 ちなみに、ヨタカが夜行性であることから、江戸時代には、夜間に街頭で商売する私娼を夜鷹といったり、夜間に屋台を引いて商売を行う蕎麦屋を夜鷹そばといったりしました。     

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あとがき【『よだかの星』の感想も交えて】

 この物語の、虫を殺すのをやめ、空の高みで飢え死にして死のうと心に決めた場面は、まるで仏教説話の『捨身飼(しゃしんし)()』を想起させます。釈尊が飢えた虎の親子を見て、崖から身を投げて、飢えを救ったという説話です。

 宮沢賢治は仏教の熱心な信仰者でしたから、一見、自己犠牲の精神を説いた作品に感じるのですが、最後によだかは星になって燃え続けます。醜い外見のよだかでも星になれる。いや、心の優しい、よだかだからこそ星になれる。そんな願いをこめた作品のように感じます。

 病弱で常に死と隣り合わせにいた賢治です。
もしかしたら、星に一縷(いちる)の望みを見出していたのかもしれませんね。

 さて、いじめの問題ですが、最初に話したように、弱いものの立場になって物事を考えてみる訓練が必要です。ですから、この作品を読んで、よだかの気持ちになることから始めてみましょう。

 ともかく、物質的に豊かになった現代に、宮沢賢治の作品は心の豊かさを教えてくれています。

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